研究課題/領域番号 |
22H01550
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村上 博成 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (30219901)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 共焦点 / バイオ / 近接場 / フェムト秒レーザー / 癌 / 細胞 |
研究実績の概要 |
これまでの研究に用いてきた反射型テラヘルツ(THz)近接場分光イメージングシステムでは,試料ホルダーを兼ねたテラヘルツエミッター内で発生するテラヘルツ点光源(レーザー集光位置で発生)がガルバノスキャナによって2次元的に走査され,試料との近接場相互作用を介して反射してくるテラヘルツ波はガルバノスキャナを介さずに,反射後すぐにITO膜を使ってテラヘルツ波検出素子であるLT-GaAs光スイッチ部へと集光されていた. よって,テラヘルツ点光源部とLT-GaAs光スイッチ部は光学的に共焦点として一致させることは不可能であった.このため,走査領域が広くなりテラヘルツ点光源の位置がイメージング中心位置から離れるにしたがって反射してくるテラヘルツ波のLT-GaAs光スイッチ部への集光位置はズレてしまい,その検出効率が落ちていた. よって本研究では,ガルバノスキャナからテラヘルツエミッターまでの光学系を構成するレンズとして,レーザー光とテラヘルツ波に対して同程度の屈折率を有するTsurupicaレンズを使用した.また検出器であるLT-GaAs光スイッチの位置の変更も行った.これにより反射してくるテラヘルツ波もガルバノスキャナを介して光スイッチまで導入する共焦点光学系を構築した.この構成によりテラヘルツ点光源(励起用レーザー集光位置)と検出器上のテラヘルツ波集光部が常に共焦点となるため,狭領域から比較的広い領域のイメージングにおいてテラヘルツ波の集光効率をほとんど落とすことなくイメージング可能なシステムが構築できた. また,テラヘルツスペクトルの精密・高感度測定のため,テラヘルツ放射部から検出部までの光学系をアクリルボックスで囲うことにより,またその内部をドライ窒素で置換することによりテラヘルツ波の水分による吸収を防ぎ,計測する信号のSN比の向上を行った.現状5倍程度のSN比の向上に成功している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初特任研究員として雇用を予定していた研究協力者が2022年3月で民間企業に就職したため実験を補助してくれる人材の確保に時間を要した.これに関しては技術補佐員を短期雇用することで対応した.また研究計画の遂行のために必要不可欠な大型ミラーを備えたガルバノミラーシステムであるが,これについては国際情勢の変化のため年度内の入手が不可能となった.このため,当初予定していた走査スピードなどの仕様において性能は若干落ちてしまうが,現有のガルバノミラーシステムを大型ミラーを取り付け可能なものへと自ら改良応して対応した. これらにより研究の本格的なスタートが遅れたことと,その他のテラヘルツ波検出用の半導体光伝導スイッチやその他半導体製品等の入手もこの情勢のために時間を要したことから,光学システムの構築を開始するのにかなりの時間を要した.しかしながら,年度末までには当初計画していた基本性能をほぼ有するレーザー・テラヘルツ共焦点光学システムの構築まで行うことはできた.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに本研究の基本となるレーザー・テラヘルツ共焦点光学システムの構築は終了したが,まだベースとなる基本システムの構築を終えた段階であり,その最適化にはまだ時間を要する.このため光学系のアラインメントのさらなる最適化を進めてシステムの性能向上を図る.そのうえで当初計画していたがん細胞をはじめとするバイオ試料の測定を開始する. これと同時にメタマテリアルを利用した計測感度の向上を図る.具体的にはメタマテリアル一体型高感度THzチップ上に直接試料を取り付け,その分光イメージング観察を開始する.これによりメタマテリアル構造の有無による観察されるデータの特性や感度の違いなどについて評価する. このようにしてシステムおよびテラヘルツチップの高感度化を終えたうえで様々なバイオ試料の観察を行い,癌細胞をはじめとした各細胞状態における指紋データの蓄積を進めていく.
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