研究課題/領域番号 |
22H01550
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村上 博成 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (30219901)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 近接場 / 高分解能 / 細胞 / メラノーマ / がん細胞 / 蝸牛 / イメージング |
研究実績の概要 |
共焦点THz近接場分光イメージングシステムのベースとなる高空間分解近接場レーザー走査型テラヘルツ放射顕微鏡の開発を行った。この高分解能化のためにシリコン製固浸レンズ(屈折率:約3.4)をテラヘルツエミッタ―であるGaAs(110)基板のレーザー照射側に貼り付け、照射レーザースポットサイズの最小化を行った。これにより、最大空間分解として1THzの波長(300μm)の100分の1以下である2.3μmの空間分解能を達成した。 このシステムを用いて行ったマウスメラノーマのテラヘルツイメージングでは、このようにプローブレスかつ高出力な光源を使わない手法であるにも関わらず、直径約20 μmの単一細胞のテラヘルツイメージングに世界で初めて成功した。また、テラヘルツ振幅強度の違いから、細胞核とその他領域の識別にも成功した。 また分光測定では、構造の異なる細胞間で、テラヘルツ波振幅強度および複素屈折率に違いがあることが分かった。これらの変化は細胞内の密度やたんぱく質濃度に起因していると考えられる。またガン細胞と低転移能のガン細胞で、位相シフトとテラへルツ波振幅強度に変化がみられた。これは主にアクチンの凝集具合が変化したことに起因していると考えられ、テラヘルツ領域における指紋スペクトルの一つである可能性を示した。 この他のバイオ試料として、聴覚を司る感覚器官である蝸牛管が集まった蝸牛の時間領域イメージングにより、テラヘルツを使ったこの内部の3次元構造の解析を進めている。 以上と並行して、「共焦点レーザーテラヘルツ放射顕微鏡」の最終的な光学系のアラインメントを推進してきた。現在までにシステムの基本動作は確認しているが、システム構築に用いている光学素子表面でのテラヘルツ電磁波の反射や集光効率等による問題で信号強度の減衰が著しく、高SN比で高感度な信号測定には至っておらず、その最適化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高分解近接場テラヘルツ放射顕微鏡の構築およびこれを用いたガン細胞等の高分解能観察においては着実に成果が出ており、現在これらの研究成果に関する論文の執筆準備を行っている。しかし、本研究タイトルにもある共焦点レーザーテラヘルツ放射顕微鏡の構築において必要不可欠な大型ミラーを備えたガルバノミラーシステムについては、世界情勢の影響もあって購入が困難な状況となり、自前の小型ガルバノスキャナに大型ミラーを取り付けたレーザースキャン兼テラヘルツ波検出システムを独自に構築した。このような理由により、システム全体の構築がかなり遅れてしまった。現在、構築した共焦点レーザーテラヘルツ放射顕微鏡システムに関しては光学的なアライメントを実施し、システムの最適化を行っている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた成果について論文で公開する予定である。 また本研究での構築を目標としている「共焦点レーザーテラヘルツ放射顕微鏡」の最終的なアラインメントおよび高感度化を推進する。現在までにシステムの基本動作は確認しているが、システム構築に用いている光学素子表面でのテラヘルツ電磁波の反射等による信号強度の減衰が著しく、高SN比で高感度な信号測定には至っていない。これら光学パーツ一つ一つのさらなる検討および配置やアラインメントの最適化を行うことにより、十分SN比の大きな信号取得に努める。このシステムを使ってがん細胞をはじめとするバイオ試料の観察を行う予定である。 また現在、より高感度な測定を目指して、2次元テラヘルツエミッタをメタマテリアル一体型高感度テラヘルツチップとし、その上に生体試料を取り付けて分光イメージングを行っている。これによりメタマテリアル構造の有無による分光感度の違いを確認しているが、今後測定対象としているバイオ試料特有の分光特性を判別する際のさらなる感度向上を試みる。ここで得られる細胞特有の分光データおよびイメージデータについて解析およびデータの蓄積を進めていく。
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