研究課題/領域番号 |
22H01557
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
湯浅 裕美 (福澤裕美) 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (20756233)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 準粒子 / スキルミオン / 情報キャリア / スピン |
研究実績の概要 |
磁性体の準粒子であるスキルミオンは、そのサイズが小さいこと、従来のスピンデバイスに比べて低電流で高速に駆動できることから、高データ密度・高速・低消費電力のポテンシャルを持つ。しかしながら、このメリットを同時に実現する事が難く、トリレンマの関係がある。本研究では、重金属と磁性体の界面に新たな層を挿入した二重ヘテロ界面を持つ積層体で、微小サイズを保ちながらも安定したスキルミオンの生成と、低電力で高速な転送を並立するための物性研究を行う。新たな界面を導入することで準粒子スキルミオンの生成メカニズムを拡張した上で、スピンに係る物性値の寄与を定量化し、学理を構築する。 はじめに、LLG方程式を解くシミュレーションにより、研究の方針を決定した。具体的には、スキルミオンが安定に生成する条件であるジャロシンスキ守屋相互作用の範囲と、転送速度を上げるための有効パラメータの同定である。具体的には、磁性体のもつ垂直磁気異方性、界面におけるジャロシンスキ守屋相互作用、外部磁場を網羅的に変化することで、現実的な中でのスキルミオン生成条件が分かった。さらに、界面に異種材料を挿入した場合を想定し、界面におけるジャロシンスキ守屋相互作用を変化したときのスキルミオンの生成条件範囲を見出したが、ここで、ジャロシンスキ守屋相互作用によってスキルミオンを安定化すると、そのサイズが大きくなってしまう事が明らかになり、冒頭述べたトリレンマが改めて認識された。したがって、スキルミオンのサイズ・転送速度・定電流の3つを並立するためには更なるパラメータであるスピン軌道トルクを高める物理量、たとえばスピンミキシングコンダクタンス、スピンホール角等を向上し、スキルミオンに与えるスピン軌道トルクを増加することが有効と導くことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シミュレーションでは、スピンミキシングコンダクタンス増加のための挿入層により劣化する恐れのあるジャロシンスキ守屋相互作用が、どの程度の減少まで許容されるか定量的に調べ、必要条件を導いた。さらに、スピンミキシングコンダクタンスをどの程度上げれば効果が得られるかを予測した。実験では、ジャロシンスキ守屋相互作用は空間非対称性のある時に得られるため、Coの上下が非対称であるCo/ Ni/ Pt積層膜に対し、ガドリニウム(Gd)を追加したGd/Co/ Ni/ Pt積層膜を作成した。これらの試料をローレンツ電子顕微鏡で、外部磁場の掃引に応じてスキルミオンが生成消滅する様子を観察した。磁化のねじれ方により、ネールスキルミオンとブロッホスキルミオンがある。スピン軌道トルクで転送するにはネールスキルミオンが必要で、もし試料が完全に一様で作成できていたら、全てネールスキルミオンとなる筈であるが、実際には膜質の揺らぎでジャロシンスキ守屋相互作用も変化する。今回挿入したGdの場合、ジャロシンスキ守屋相互作用の劣化を示唆するブロッホスキルミオンの増加が見られた。さらに、スピン軌道トルク磁化反転の実験から、Gd挿入によってスピンミキシングコンダクタンスが増加する結果が得られず、この構成は好適でない事が分かった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の、積層膜への挿入層がスピン軌道トルクの増加をもたらさず、加えてジャロシンスキ守屋相互作用が劣化するという悪い結果を踏まえ、以下の方針で検討する。挿入層の選択に際し、これまでにスピンゼーベック効果やスピンホール磁気抵抗効果で見出した挿入層を参照していた。しかし、参照例は磁性層がY3Fe5O12(YIG)という酸化物磁性体の場合に効果を示したものである。これに対し、磁気準粒子の実験では磁性層がCoなどであり、挿入層の選択を一から見直す必要がある可能性もある。現在は幾つかの材料で試行しているが、これらを総括して材料選択レシピを作成したい。次年度はこれの礎となるような結果を収集する。また、電流転送のための素子作製を行う。シミュレーションから最適構造を推測し、昨年度末に導入したマスクレスのフォトリソグラフィーでパターニングして作製する。
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