研究課題/領域番号 |
22H01563
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
中村 文則 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (70707786)
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研究分担者 |
下村 匠 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (40242002)
神田 佳一 明石工業高等専門学校, 都市システム工学科, 教授 (60214722)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 塩害 / 環境作用 / 劣化予測 / 飛来塩分 / 表面境界 |
研究実績の概要 |
令和4年度には、環境予測技術を利用した地形変化モデルの構築、環境作用による表面特性変化とその影響を評価するための実構造物の調査を実施し、その研究成果を査読付論文および口頭発表として学会等で発表を行った。 実構造物の調査では、塩害環境下に50年間設置されてきたコンクリート橋梁の橋桁の一部を大学の実験室に運び、その表面および内部の調査を実施した。その結果として、塩害環境下に設置された橋梁の表面の損傷度を定量化できたとともに、そのコンクリート内部に浸透している塩化物イオン量との関係について整理することができた。これらの成果の取りまとめを行い、学会において口頭発表を行った。 その後、実構造物の表面および内部の調査項目と箇所を拡張した調査を実施し、コンクリート橋桁の劣化度と内部の劣化促進物質量の詳細なデータの取得を行った。その結果だけでは、橋梁の外部環境とコンクリート内部の劣化促進物質量の関係を明らかにできない部分があったため、数値シミュレーションを利用して外部環境作用について予測を行った。数値シミュレーションでは、橋梁形状およびその周辺の地形を含めた3次元数値空間を構築し、その中で海域からの風況と飛来塩分の輸送過程、橋桁各位置への作用状況について予測を行った。 その結果から、数値シミュレーションを利用することで、橋梁の外部環境からコンクリート内部までの劣化促進物質量を一連して予測できることが示された。さらに、橋梁の外部環境作用が同様でも、コンクリート表面の劣化度に応じて内部の劣化促進物質量に違いが生じることが明らかになった。これらの結果を取りまとめ、塩害環境下に設置されたPC桁の損傷・内部劣化促進物質量の調査と外部環境予測として査読付論文に投稿を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海岸工学分野の環境予測技術を利用した地形変化モデルの構築として、構造物周辺の海岸の地形変化を予測できる数値モデルの構築を行った。数値モデルは、海岸工学分野で使用されている波動モデルと過去の研究成果の知見を利用した土砂移動モデルを組み合わせたものである。波動モデルは、修正ブシネスク方程式モデルであり、波高と周期の波浪条件に応じて海域の波の挙動を予測するものである。土砂移動モデルは、波と流れの相互の作用に応じて、海底の土砂移動量を簡易的に予測するモデルを構築した。 環境作用による表面特性変化とその影響に関する模型実験と実構造物の調査を実施した。実験施設は、保有済みの塩害環境再現施設を拡張し、これまでよりも長時間に及ぶ実験と詳細な計測ができるようにした。さらに、環境作用(降雨、風、飛来塩分)および表面特性を変化させた条件で実験できるように拡張を行った。実験に使用する模型は、橋桁の側面を模擬した実スケールのコンクリート製の模型であり、令和4年度に新たに製作した。施設の拡張後は、施設の性能を確認するために、環境作用を変化させた基礎的な実験および計測を実施した。さらに、コンクリート製の小型供試体を利用し、外部環境作用に応じた表面・表層の水分と塩化物イオンの移動過程について実験を実施した。 実構造物の外部・表面・内部を網羅した調査(検証)データの取得として、撤去した実橋梁の主桁の一部を大学の実験室に移動し、表面から内部までの詳細な調査を実施した。実橋梁から摘出した供試体は、橋軸方向長さ1m程度である。供試体表面の調査項目は、ひび割れおよび浮き・剥離の分布である。コンクリート部の表層から内部の調査項目は、中性化、浸透塩化物イオン量、鉄筋の腐食状況である。これらの調査を実施し、その結果について整理した。 以上より、研究の進捗状況はおおむね予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、以下のようなものを計画している。 (1) 地形変形モデルの構築と実構造物の総合劣化予測システムの開発 令和5年度には、昨年度に引き続き、海岸工学分野の環境予測技術を利用した地形変化モデルの構築を行うとともに、構築したモデルの改良を進める予定である。具体的には、現地調査の範囲を複数の海岸に拡大し、汎用的な条件で波浪・流況・地形変化の状況を予測できるモデルへの改良を行う。環境予測技術を利用した地形変化モデルの構築・改良とともに、実構造物の総合劣化予測システムの開発を行う予定である。実構造物周辺の地形条件とコンクリート表面の時間的な特性変化を考慮して、実構造物の劣化予測が可能な技術の開発に挑戦する予定である。 (2) 開発したシステムの実構造物の劣化予測解析への適用と検証データの取得 令和5年度(2023年度)には、昨年度に引き続き、開発したシステムの検証データの取得を行うとともに、システムの実構造物への適用を進める予定である。検証データの取得では、実構造物の外部・表面・内部を網羅した調査(検証)データの取得を行い、昨年度と異なる構造物のデータを新たに取得する予定である。開発したシステムの実構造物への適用では、予測システムにより、構造物の外部・表面・内部の劣化促進物質の移動過程を解析し、実構造物の劣化過程を時系列で予測する。対象とする構造物は、昨年度に外部・表面・内部の検証データを取得したコンクリート橋梁に適用させる予定である。橋梁が供用されてから撤去される期間を対象に予測解析を実施し、構造物の劣化過程について再現を行う。さらに、これまでの研究で取得してきた構造物の外部・内部・表面の総合的な検証データと予測システムの計算結果を比較することで、構築した予測システムの妥当性の検証を行い、その改善点について整理する予定である。
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