研究課題/領域番号 |
22H01588
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩井 裕正 京都大学, 工学研究科, 准教授 (80756908)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 海底地すべり津波 / 津波振幅 / エネルギー輸送現象 / 微小振幅波理論 |
研究実績の概要 |
2022年度に実施を予定していた,海底地すべり模型実験装置の荷重・水圧制御システムの構築について,電子部品の調達遅延により当初の計画より遅れが生じた。その代替として既存の海底地すべり模型実験土槽を用いて,海底地すべり運動と励起される津波特性の相関を調べる実験を継続的に実施した。特に,海底地すべりの運動と引き起こされる津波の振幅との関係に注目をして実験結果の分析を行った。これまで,海底地すべり津波の振幅には,海底地すべり土塊の体積や加速度が支配的な影響を持つことを明らかにしてきたが,それに加えて地すべり速度それ自体も津波振幅に大きく影響することがわかった。興味深いことは,海底地すべりの初速度が観察される地すべり初期段階と,地すべり土塊が大きく加速した後に停止する段階では,どの要因が津波振幅に対して支配的な影響をもつかが変化するという点である。この結果に基づいて,水位変動量から求めた波のエネルギーと,すべり土塊の運動エネルギーの時間変化率の絶対値の関係を整理したとこと,両者に強い正の相関があることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度に実施を予定していた,海底地すべり模型実験装置の荷重・水圧制御システムの構築について,電子部品の調達遅延により当初の計画より遅れが生じた。その代替として既存の海底地すべり模型実験土槽を用いて,海底地すべり運動と励起される津波特性の相関を調べる実験を継続的に実施した。2023年度中に上記システムの構築を完了した。これによって,室内模型実験に加えて,実際の海底斜面で想定される温度・圧力条件下で,地盤の強度や変形特性などの要素挙動を調べることが可能となった。また,計画よりやや遅れているもう一つの理由は,2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震において,富山湾で予想以上に到達時刻が早い津波を観測したことを受けて,急遽富山湾の津波の波形データの分析を行ったためである。震源に比較的近い石川県七尾市における津波第一波の到達時刻は16 時 37分である一方で,富山湾に設置された潮位計では地震の発生からわずか3分後の16 時 13分に津波第一波を観測した。富山湾で観測されて津波は,①到達時間が予想以上に早いこと,②第一波が引き波から始まっていること,そして③第二波で異なる周波数特性を持つ波が到来し津波振幅が増幅している,という3つの特徴を有していることが本分析より明らかとなった。 海底地すべり津波は,深海底地盤での地盤災害であるため実際に観察されることは非常に稀である。富山湾で観測された津波は,津波波形データが記録されており,また地震発生後に行われた海底地形の調査によって富山湾の海底地盤で斜面崩壊の痕跡も見つかっており,実際に海底地すべり津波が発生したことが強く疑われるものである。このような現場データは大変貴重であるため,本年度の研究計画を急遽変更することに至った。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は昨年度に引き続き,海底地すべり模型実験を実施し,地すべり運動と励起される津波特性の関係性の把握に努める。これまでの研究を通じて,発生する津波エネルギーを海底地すべり運動の仕事率で整理することを提案し,両者に強い相関があることが明らかとなった。また,これまでは主に発生する津波振幅に注目して実験結果を考察していたが,それに加えて,津波到達時刻の予測に不可欠な津波の波速や周期についての検討にも着手した。今年度は実験的な検討を継続的に進めつつ,実験で得た知見が令和6年度能登半島地震において富山湾で観測された津波を説明できるかどうかについて考察を進める。地震発生後に行われた海底地形の調査によって富山湾の海底地盤で斜面崩壊の痕跡も見つかっており,富山湾で観測された津波が海底斜面崩壊によって引き起こされたことが強く疑われる。さらに,海底地すべり-津波励起現象を再現することができる数値解析手法の開発に着手する。当初の研究計画では,海底斜面崩壊という地盤の大変形と自由水面を有する流体の連成解析を予定していた。しかしこれまでの実験的研究によって,海底地すべり津波は微小振幅波理論の枠組みの中で議論できる可能性が示唆された。複雑な非線形偏微分方程式を導入せずとも比較的シンプルなモデル化による海底地すべり津波の再現を試みる。
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