研究課題/領域番号 |
22H01615
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
喜多 秀行 神戸大学, 工学研究科, 名誉教授 (50135521)
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研究分担者 |
瀬谷 創 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (20584296)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 準公共交通空白地有償運送(仮称) / 過疎地域 / 統合的運営 / 住民互助輸送 / タクシー |
研究実績の概要 |
需要密度が低い地方部,とりわけ公共交通サービスの維持・確保が困難な過疎地域で,「安全性」,「低廉性」,「利便性」,「安定供給」,「速達性」とタクシー事業者の「収益性」(維持可能性)の条件をすべて満たす公共交通サービスを設計することは可能か? これが本研究課題の核心をなす「問い」である.この「問い」への答として,“タクシーと互助輸送を同一料金で統合的に運用し,両者の間で収益配分調整を行うことによりタクシーの撤退を防ぎつつ,タクシーより安価で利便性の高い新たなサービスを設計する”ことが本研究の目的である. 1年目となる2022年度は,わが国の法制度の下での実現可能性の検討,供給可能性調査,需要意向調査の3つの面から研究を進めた.申請時には“本研究で想定する制度はわが国の現行の法制度では認められない可能性が高い”と考えていたが,現行の道路運送法やいくつかの通達を精査し,同法を所管する国土交通省の担当者にも確認した結果,適切に制度設計を行うことにより現行法制度下においても実現可能性があるとの結論に達した.この点が本年度の大きな成果であり,これを受けて社会実装のフィールド選定を開始した.供給側については移動困難者に対する共感と公共的判断がボランティア・ドライバーの参加意識に及ぼす影響等に関するウェブ調査を行い,設定条件下では潜在的提供者が少なからず存在するとの感触が得られた,需要側については運賃水準と朝ピーク時の待ち時間の長さが需要性向に及ぼす影響等に関するウェブ調査を行い,適切にマッチングを行うことにより利用意向に沿ったサービスを提供しうる見通しが得られた.両者を総合することにより,提案するしくみが比較的高い実現可能性を有するとの示唆を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究期間は2022年度~2024年度の3年間である.2022年度は,法制度面から見た実現可能性の検討とウェブ調査によるサービスの供給側・需要側の移動実態と意向の把握,2023年度は,ウェブ調査データに基づく供給関数と需要関数の推定と静的な需給均衡分析,2024年度は,利用が利用を呼び供給が供給を呼ぶという「行動の連鎖反応」のメカニズムを把握するため動学的な需要供給均衡の推移を記述するモデルへの拡張と,タクシー事業者とボランティア・ドライバーに継続的な事業参画を促すインセンティブシステムの設計を行う計画であった.2022年度は,本研究課題で提案するサービス提供のしくみが依拠すべき主要法制である道路運送法について現行法と改正法および関係諸通達について調査すると共に,所管官庁である国土交通省の担当者にヒアリングを行い,現行法制度下での導入が可能であるとの知見が得られた.また,供給側調査と需要側調査を実施して得たデータを分析し,調査で想定した地域特性を有する地区においては需給を適切にマッチングしうる可能性を見出すことができた. 上述のようなほぼ計画どおりの進捗に加え,現行法制度下での導入が可能であるとの知見が得られたことを受けて社会実装のためのフィ-ルド選定に注力し,モデル構築のためのフィールド調査という枠を超え,社会実装に向けた過疎地域のフィールドを選定するに至った.ただし,フィールド選定に注力したため,需給均衡分析については若干の積み残しが生じた.以上より「(2)概ね順調に進展している」と自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
基本的に研究計画に変更はない.2023年度前半は社会実装を行うべく選定した対象地区でのアンケート調査とヒアリング調査,および,昨年度実施したウェブ調査データを用いた静的な需給均衡分析を行う予定である.また,2023年度後半はこれらの結果を踏まえた計画代替案の作成と必要な地元調整を行い,2023年度内にサービス提供の新たなしくみの基本設計を終えたいと考えている.2024年度は,タクシーとボランティア輸送を統合したサービスに対する住民へのフィールド調査を通じて得られた知見を動学的な需要供給均衡モデルに反映させ,サービスの持続的な提供可能性とそのための条件についての知見を得ると共に,望むらくは基本設計案の社会実装を目指し,年度内の実装ができた場合は提案するしくみが想定どおり機能するか否かを確認したいと考えている. 問題点として,申請時は調査とモデル分析を主たる内容とする研究計画であったが,初年度の研究の結果社会実装に向けたフィールド研究へと研究計画を拡大することとしたため,予約と配車のための情報システムの開発,詳細設計と実施計画策定のための作業,対象フィールドへの頻繁な移動などの費用が賄いきれない可能性が生じてきたため,その確保方策が挙げられる.
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