研究課題/領域番号 |
22H01621
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
滝沢 智 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (10206914)
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研究分担者 |
橋本 崇史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (80735712)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フッ素摂取 / 米 / デンプン / 地下水 / 吸着 |
研究実績の概要 |
(1)デンプン含有食品へのフッ素吸着機構の解明 デンプンとフッ素との水素結合について、①水素結合阻害剤を用いた実験と、②水素結合の機器分析、の2つの方法で解析・検証した。水素結合阻害剤には、デンプン分子内の水素結合を阻害する尿素と、デンプン分子間の水素結合を阻害する1, 1, 3,3,-テトラメチル尿素(TMU)があり、フッ素がデンプン分子に水素結合しているとすれば、このうちTMUによりフッ素の吸着量が低下し、尿素の影響はわずかであることが推定される。そこで、これらの水素結合阻害剤を異なる条件で添加して、デンプン中のamyloseとamylopectinへのフッ素吸着に及ぼす影響を検証した。機器分析による方法は、フーリエ変換赤外吸光法(FT-IT)と核磁気共鳴法(NMR: Nuclear Magnetic Resonance)を用い、デンプンの構成成分である、グルコースやデキストリン、さらにamyloseとamylopectinとフッ素の水素結合を1H/19FNMRを用いたHSQCにより解析した。 (2)デンプン含有食品へのフッ素吸着の動力学 炊飯前の洗米・浸漬における含水率の変化と、フッ素の拡散および吸着の過程を解析した。COMSOL Multiphysicsの固体力学モジュールと拡散吸着モジュールとを組み合わせて、米粒内のデンプンへのフッ素吸着動力学を解析した。 (3)デンプンへのフッ素吸着機構を用いた水中のフッ素除去技術の開発 (1)および(2)により、デンプンへのフッ素吸着機構と動力学を解析し、デンプン粒子を水中のフッ素除去技術として用いることを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フッ素の摂取は、ヒトの健康に影響を及ぼすことが知られており、これまでは飲料水からの摂取が主な摂取源であると考えられてきた。しかし、近年の研究によると、食品からのフッ素の摂取も無視できないことが報告されている。そこで、本研究ではフッ素を含む水中に浸漬あるいは沸騰した水中に浸漬した食品へのフッ素の吸収および吸着を実験的に確認した。実験の結果として、コメ中のフッ素含有量は、従来考えられていたフッ素含有水を吸収することによって含まれる値よりも高く、フッ素がコメに吸着されることが推定された。これについて、コメへのフッ素吸着後の水中のフッ素濃度を、吸着前のフッ素濃度と比較したところ、コメへのフッ素吸着によって、水中のフッ素濃度が低下していることが確認できた。また、コメデンプンのヨウ素ヨウ化カリウムによる染色反応に対して、フッ素イオンが阻害することから、フッ素イオンはヨウ素とデンプンの相互作用に影響することが明らかとなった。コメを炊飯することや、野菜を調理することを想定して、50℃および100℃の水中でフッ素の吸収と吸着を調べたところ、加温することでフッ素の吸収および吸着量が大幅に増加することが示された。これらのことから、フッ素含有水を調理用水として使用すると、従来考えられていたよりも多くのフッ素を摂取することが示された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、コメ、野菜などにフッ素が吸着することが確認できた。今後の研究では、フッ素の吸着機構について検討する。検討法としては、コメ中のデンプンへのフッ素吸着が水素結合によるものだとの仮説に基づいて、フッ素と同じくハロゲンイオンである塩素イオンの吸着についての実験を行う。異なる塩素イオンとフッ素イオン濃度の溶液からコメへの競合吸着について調べる。また、水素結合阻害剤として知られている尿素などを添加して、フッ素の吸着に及ぼす影響を評価する。また、フッ素とデンプンの水素結合を調べるため、Molecular Dynamics Modelの一つであるPyMolを用いて検討する。
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