研究課題/領域番号 |
22H01725
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
伊里 友一朗 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 准教授 (90794016)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 自着火 / 詳細反応モデル / 量子化学計算 / 化学推進 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,第一原理から構築された液相の詳細化学反応機構(素反応・その速度定数・化学種全ての熱力学データのモデリング技術を含む)と数値流体シミュレーションをカップリングさせた反応性熱流体解析に関する学術基盤を確立し,化学/物理現象が複雑に相互作用する高速過渡的現象である宇宙機用推進剤の自着火現象を本質的に理解し,その能動的制御を達成することである. 2022年度には、従来の量子力学/連続誘電体モデル(QM/PCM)法に基づいたヒドラジン/四酸化二窒素混合系の詳細反応機構に拡散過程を取り込んだ詳細反応モデルを構築することができた。当該モデルを用いて自着火反応をシミュレーションしたところ、打撃感度が高い爆発性の中間体が生成することがわかり、この中間体生成が衝撃波を伴うような激しい着火現象の原因の一つとして考えられた。これまで理論的課題があったQM/PCM法を利用した溶液中化学種に関する熱力学データ推算についても理論を見直し、計算精度向上を達成した。これはQM/PCM法の枠組みを利用することで、これまで不可能であった溶液中化学種のエントロピーを高精度に推算する方法であり、これを詳細反応モデリングへ適用することができれば液相反応シミュレーション精度を大きく向上させられることが期待できる。加えて粒子法を用いたヒドラジン/四酸化二窒素の液滴/プール衝突混合に関するシミュレーションを試行し、同系の液滴/プール衝突実験に関する高速度撮影結果と比較することで、衝突挙動をよく模擬できることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、ヒドラジン/四酸化二窒素の自着火反応に関する液相詳細反応モデル改良および粒子法を用いたヒドラジン/四酸化二窒素の液滴衝突シミュレーションの実施であった。前者については、液相反応特有の拡散過程を取り込んだ詳細反応モデリングを達成し、これを用いた詳細反応シミュレーションを実施し、ハードスタートの原因と考えられる中間体の特定ができた。後者については、粒子法シミュレーションを試行し、高速度カメラを用いて観測した液滴/プールの衝突挙動を再現できる見通しを得ることができた。2023年度に取り組む予定であった液相化学種の熱力学データ推算理論の高度化に関しても、QM/PCM法の枠組みを利用したエントロピー推算法を確立できたなど先行して進展が見られたことから、2022年度は概ね順調に進展したものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は2022年度に開発した新しい熱力学データ推算方法を詳細反応モデリングに取り込み、さらに液相中の拡散現象をも考慮した、より高度な詳細反応モデリング技法確立に着手する。新しい詳細反応モデリング技法を用いて、2022年度までに構築したヒドラジン/四酸化二窒素混合系の詳細反応機構を更新し、当該反応系に関するシミュレーションを実施することでヒドラジン/四酸化二窒素混合系に関する自着火反応を詳細解析する。熱力学データ推算精度が不十分な水溶液系に関しては、溶媒水の配向エントロピー計算精度に問題があることまでは明らかになったので、分子動力学計算や機械学習等を用いて課題解決にアプローチする。数値流体シミュレーションに関しては、粒子法を軸に引き続き検討をするが、高速度カメラを用いたヒドラジン/四酸化二窒素の液滴/プール衝突挙動の詳細可視化実験も実施し、これをシミュレーションと比較することで、その妥当性も検討する。これらの知見を統合して、ヒドラジン/四酸化二窒素混合系の衝撃波を伴う着火衝撃現象の原因について考察する予定である。
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