研究課題/領域番号 |
22H01743
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
寺林 優 香川大学, 創造工学部, 教授 (40243745)
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研究分担者 |
卜部 厚志 新潟大学, 災害・復興科学研究所, 教授 (20281173)
酒井 英男 富山大学, 理学部, 客員教授 (30134993)
金田 義行 香川大学, 四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構, 特任教授 (50359171)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 津波堆積物 / 瀬戸内海沿岸域 / 南海トラフ地震 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、鳴門海峡および明石海峡以西の瀬戸内海沿岸域において、湖底堆積物および海岸低地堆積物から津波堆積物を発見し、津波履歴を解明することである。 令和4年度は、11月に播磨灘に面する香川県東かがわ市引田地区の大池で、湖上からのボーリングマシンによる打ち込み式コアリングによって湖底堆積物を掘削した。最深部の水深約4mから3.5mの4地点で、湖底および湖底からの深度約50cmから開始し、最長6mのコアを合計9本、総延長44mのコアを採取した。 掘削したコアを半裁し、肉眼観察および写真撮影、さらに高知大学海洋コア総合研究センターでのX線CT画像撮影によって柱状図を作成した。携帯用帯磁率計で10cmごとに帯磁率を測定した。S-1-Aコア(全長4m)の224試料と連続性の良いS-2-Bコア(全長5m)の168試料に対し、新潟大学災害・復興科学研究所でレーザ回折式粒度分布測定装置(Malvern Panalytical社製・マスターサイザー3000)で粒度分析した。湖水環境の指標となる珪藻分析は、S-2-Bコアの16試料に対し予察的に行った。さらにS-1-Aコアの3試料、S-2-Bコアの12試料の主に植物片の放射性炭素年代を測定した。 令和5年度は、S-1-Aコアの101試料、S-2-Bコアの190試料、S-2-Aコア(全長6mの上部2m)の61試料に対し、新潟大学のイオウ濃度分析装置(堀場製作所・EMIA-120)でイオウ濃度を測定した。S-2-Aコアの235試料に対し、粒度分析を行った。S-2-Bコアに対しては、珪藻分析を異なる層相ごとの試料に対して行い、珪藻の環境指標種群を同定し、湖水環境の変化を明らかにした。ほぼ全てのコアからポリカーボネート製のキューブに帯磁率測定用試料を封入し、磁化率計(Bartington社製・MS2)で測定し、粒度および硫黄濃度との関連を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査研究地域である、瀬戸内海の播磨灘に面する沿岸湖沼の大池の4地点において、湖上からのボーリングによって、湖底堆積物を比較的連続性の良いコアとして合計9本、総延長44mを掘削することができた。各コアの観察から何枚ものイベント層の挟在を確認することができた。津波堆積物であることを認定するために、粒度分析、イオウ濃度測定、帯磁率測定、珪藻分析、放射性炭素年代測定を行い、それらの相関が明らかになりつつある。 放射性炭素年代測定は、植物片の測定が望ましいが、コア中には偏在しており、かつ含まれていても量が少なく、年代測定には不足する場合が多いため、イベント層の堆積年代の決定には、年代測定用試料のさらなる抽出が必要となる。 さらに、令和6年能登半島地震では、地震断層による海底地形の変位だけでなく、海底地滑りによる津波の発生が指摘されている。瀬戸内海沿岸域においても、南海トラフ地震による津波の襲来だけでなく、瀬戸内海の海底にある活断層の活動や海底地滑りによる津波の発生履歴についても精査する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、各種分析が完了していないコアに対し追加分析を行う。まず、イオウ濃度分析をS-2-Aコア(全長6mの中部から下部4m)、帯磁率測定をS-1-Aコア(全長4mの下部2メートル)で行う。さらに、イベント堆積物の堆積年代と湖水環境の変化を明らかにするための放射性炭素年代測定および珪藻分析をS-2-Aコア(全長6m)を中心に行う。磁性鉱物は堆積後の環境変化に敏感であることから、全てのコアからポリカーボネート製のキューブに封入した試料を用いて、残留磁化の測定を富山大学理学部で行う。 S-3-Aコア(全長5m)、S-3-Bコア(全長5m)、S-4-Aコア(全長5m)、S-4-Bコア(全長5m)の帯磁率測定は全て完了しているが、他の各種分析は未着手であることから、分析の必要性があるか検討する。 大池での湖上からのボーリングコア掘削では、コアの欠損が大なり小なり生じている。各地点で掘削開始深度を約50cmずらして2孔を掘削し、2本のコアを集成することで欠損を補うことを目指してある。しかし、湖底から2メートル前後までの浅部では、コアの撹乱が生じており、ピストンコアラーでの掘削など、より連続性の良いコア採取の方法を検討する。 本研究では、閉鎖性海域の瀬戸内海において、播磨灘、備讃瀬戸、燧灘のように、形状の相違・島嶼の有無・海底地形に起因する津波規模の違いを明らかにすることを目指しているが、播磨灘に面する沿岸湖沼の調査研究にしか着手できておらず、令和6年度中に、備讃瀬戸の島嶼部での掘削候補地の選定に向けての情報収集や現地調査が必要である。
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