研究課題/領域番号 |
22H01745
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 叡啓大学 |
研究代表者 |
山田 芳則 叡啓大学, ソーシャルシステムデザイン学部, 教授 (80553164)
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研究分担者 |
林 修吾 気象庁気象研究所, 気象予報研究部, 主任研究官 (20354441)
本吉 弘岐 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 雪氷防災研究部門, 主任研究員 (70571462)
民田 晴也 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 主任技師 (80422765)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 融解降雪粒子 / バルク微物理モデル / 数値モデル / 融解降雪粒子観測 / 偏波レーダー |
研究実績の概要 |
融解粒子を再現できるようなバルク微物理モデルの開発では、融解粒子として湿雪とSlush, 過冷却の雨滴を新規に組み込み、これらの粒子間の相互作用及び湿雪やSlushとあられ粒子(現時点では融解途中の状態は考慮しない)との相互作用を新たにモデルに組み入れた。地上付近で雨滴の湿球温度が0℃未満の場合に雨滴から過冷却雨滴への変換が生じるものとした。なお、湿雪やSlushが関与する粒子間の相互作用においては、これらの粒子が存在する粒径の範囲だけを計算する。現在、モデルが安定して動作するように、バグ対応やモデルコードの見直しを行っている。 融解粒子の地上観測は、長岡雪氷防災研究センター構内において昨年度と同様に観測を冬季間に実施した。ウォーターブルー処理濾紙を用いた融解降雪粒子の含水率計測手法では、前年度作成した0℃恒温槽と新規に導入した恒温器とによって、降雪粒子が融解しないように濾紙の写真撮影前後の温度を一定に保つための改良を行った。この観測手法を用いて、降水形態が雨から雪へ変化する事例についての計測を、他の降雪粒子観測と併せて実施した。また、濾紙法では困難な、あられ粒子の含水率の測定法について検討も行った。一方、名古屋大学で開発したMulti-angle Snowflake Imager (MSI) による観測では、昨年度の観測結果を検証するとともに、装置の光学モジュールをアップグレードし、さらに長岡に降る落下速度の速い湿雪・あられに対応するためにレーザラインスキャナの高速化と粒子撮影カメラの更新・増設によって装置を高度化した。この機器によって2023年12月20日から2024年3月20日の期間に連続観測を実施した。 粒子判別については、ベイズ分類を用いた二重偏波気象レーダーによる降水種別判別(小池、2021)を参考に判別法の検討を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗状況は全般的におおむね計画どおりである。融解粒子の地上観測は順調であるとはいえ、数値モデル開発と粒子判別の部分に少々遅れがみられる。 融解粒子を含むバルク微物理モデル開発では、新規に融解粒子の種別を加えたことによって、各粒子の素過程に加えて異粒子間・同種粒子間の相互作用をモデル化して組み込み済みである。ただし、素過程や相互作用の数が大幅に増加するため、モデルが安定に動作するようにバグの除去だけでなく、計算が不安定になるような箇所や原因の特定・修正に時間を要している。このために、進捗がやや遅れ気味である。 地上降雪粒子観測においては、長岡雪氷防災研究センター内での降雪粒子の観測(融解雪粒子の含水率の測定や名古屋大学で開発された測器 (MSI) による観測)はこれまでの2冬季間で順調に実施できている。融解雪粒子の含水率の測定では、降雪粒子の温度を一定に保つ工夫や測定での手作業は避けられないとはいえ、可能な範囲で測定のための良好な環境を整備し、融解雪粒子が観測された事例について観測を積み重ねることでデータが順調に蓄積できている。あられ粒子が日本海降雪雲からは多く降るため、あられ粒子の含水率についても数値モデルに組み込む上で非常に重要ではあるが、これまでの含水率の計測に関する研究事例がほとんどないこともあって、測定手法について継続して検討を続けている。MSIによる観測も冬季間にわたって連続してデータが取得できている。特に今年度は受光素子や光学モジュールのアップグレードを行い、より良質なデータが得られている。データ解析や長岡雪氷防災研究センターで冬季間にルーチン的に運用されているデータとの比較はこれから取り組む。 偏波レーダーによる融解粒子の面的な探知に関しては、小池 (2021)による方法が適用可能かどうか、偏波情報の利用に着手した段階である。
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今後の研究の推進方策 |
数値モデル開発に関しては、融解粒子を新規に追加したことによって微物理モデルでの過程が非常に複雑になっているため、プログラムの見直しや小規模のモデル実験を繰り返して行うことで、モデルのバグや不具合の箇所を早急に除去・修正によって、モデルが安定して動作するように対処する。また、湿雪やSlushの再凍結の過程も組み入れることで、降雪の融解に関与する微物理モデルの高度化を目指す。さらに、長岡市で湿雪や凍雨が観測された事例についてモデル実験を実施し、その結果を移動観測を含めた地上降雪観測や偏波レーダーによる融解粒子の面的な分布と比較することで、モデルによる湿雪等の再現性を検証する。 地上降雪粒子観測について、これまでと同様に濾紙法によって降雪内の含水率の観測を様々な事例に対して実施し、含水率計測を実施した事例について他の降雪粒子観測と組み合わせたデータセットを作成する。同時に、数値モデルで必要となる融解粒子に関する物理パラメーターを求める。また、あられを伴う事例における光学式ディスドロメータのデータから融解環境下のあられの特性を整理するとともに、融解しているあられ粒子の質量と融解度の関係を調査する。一方、Multi-angle Snowflake Imager (MSI)で観測した2年間のデータを整理・解析して、研究グループ内で共有することを目指す。長岡での降雪の特徴を解析する上でのMSIの強みと弱点・課題も精査する。長岡雪氷防災研究センターで運用中の観測機器とのデータ比較解析からMSIの評価を行い、更なる性能向上を目指すともに、継続した観測によってMSIの完成度を高めて融解粒子の物理的特性を明らかにする。 偏波レーダーによる融解粒子の探知に関しては、小池 (2021)による方法をさらに検討し、長岡雪氷防災研究センターでの地上観測との比較を行うことで、アルゴリズムの有効性を検証する。
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備考 |
研究内容と研究成果、研究グループの紹介。研究期間の終わりには成果報告書を掲載予定である。
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