研究課題
本研究はR1~R4年度「リエントラント形状記憶合金-異常なマルテンサイト変態を示す新規Co系合金の開発-」(基盤研究B、課題番号19H02412)における最終年度前年度応募によって再構築した研究課題であり、本年度の1年目は当初研究計画の最終年度の研究内容と再構築した研究課題の1年目の研究内容を平行して進行した。bcc構造を有するCoCrAlSi合金においては、そのbcc構造の存在範囲は一部しか分かっていなかったが、本年度は一定Al:Si比の擬3元系において、bccの存在範囲を含む擬3元系状態図の実験的決定を行った。種々の組成について、高周波誘導溶解もしくはアーク溶解で合金を作製し、1200度1日の熱処理を行った後EPMAを用いて平衡組成を調査した。その結果、おおよそCo濃度53at.%までの組成領域において、bcc構造の単相領域が存在することが分かった。実験的に決定した本状態図は、今後合金開発の指針になるだけではなく、超弾性効果に伴って出現する異常挙動を有するヒステリシスの調査にも重要な意味を持つ。さらに、公募研究によって獲得したJ-PARC BL01四季のビームタイムを利用して、単結晶試料を用いた中性子非弾性散乱実験を行い、フォノンダイナミクスを調査した。その結果、室温を含むいくつかの温度においてフォノン分散を測定することができ、特に音響フォノンが明確に観測されたことより、弾性定数を含む弾性特性の温度依存性に関する理解が深まることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
前研究課題で残された平衡状態図の実験的決定が完了し、再構築された本研究課題の1年目の研究内容もおおむね順調に進展している。
本研究の第2年次は、計画通り合金制御による磁性の低減および超弾性特性における異常なヒステリシス挙動の起源解明に挑戦する。1. 磁性の低減本合金の磁化率は現状ではSUS316Lの数倍と大きいため、低減させる必要がある。昨年度に決定したCo-Cr-(Al,Si)擬3元系状態図をベースにキュリー点の低い組成領域の調査に進む。また、必要に応じて、Ti、ZrやNb等、生体的安全性の高い元素を添加し、超弾性と低ヤング率を維持しながら磁性の低減に挑戦する。2. 異常なヒステリシス挙動の起源解明本合金は応力誘起マルテンサイト変態開始時に過剰なヒステリシスおよび、わずかな組成変化で相変態ヒステリシスが大きく変化する、といった異常なヒステリシス挙動が見られている。その起源を調査するために、Co濃度一定、Cr濃度一定などの断面の単結晶合金を作製し、これらの単結晶試料を用いた機械試験を行い、ヒステリシスの組成依存性を調査する。また、研究代表者は今年度前半に公募研究によってJ-PARC BL19匠のビームタイムを獲得しており、種々の組成断面シリーズの単結晶試料を用いて引っ張り試験中のその場中性子散乱実験を行い、母相とマルテンサイト相の格子定数とヒステリシスの関係性を調査する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Advanced Materials
巻: 34 ページ: 2202305~2202305
10.1002/adma.202202305
Advanced Materials & Processes
巻: 180 ページ: 35~37
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/05/press20220519-02-cocr3.html