研究課題/領域番号 |
22H01760
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
連川 貞弘 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (40227484)
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研究分担者 |
井 誠一郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 主幹研究員 (60435146)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 粒界 / 粒界偏析 / 転位 / 力学特性 / ナノインデンテーション / 粒界磁性 |
研究実績の概要 |
令和4年度に得られた主な研究成果は下記の通りである。 1.粒界および粒界近傍の局所力学特性に及ぼす粒界偏析の影響: 本年度は,鉄・鉄鋼材料において著しい粒界脆化の原因となるリン(P)の粒界偏析に着目した。溶融回転法(FZ法)により{332}Σ11/<110>および{111}Σ3/<110>対称傾角粒界を有するFe-2.8 mass%SiおよびFe-2.8 mass%Si-0.01 mass%P双結晶を育成し,ナノインデンテーション試験を行った。いずれの双結晶試料においても変形初期の荷重(P)-変位(h)曲線に現れるfirst pop-in荷重から求めた粒界からの転位生成の臨界応力は,リンの粒界偏析により低下することが明らかとなった。一方,粒界の存在に起因してP-h曲線の高荷重域でしばしば現れるGB pop-inの発生荷重は,リンの粒界偏析により逆に高くなることが見出された。以上の結果より,Fe-Si合金へのPの粒界偏析は,粒界からの転位生成の臨界応力を低下させ,逆に粒界を超えた隣接粒への塑性歪みの伝播応力を高めることが明らかとなった。これらの結果は,GB pop-inの発生機構が粒界への堆積転位の応力集中に起因する粒界からの転位生成よりも,粒界を越えた転位の伝播である可能性が高いことを示唆している。なお,リンの粒界偏析はオージェ電子分光分析装置を用いて確認した。 2.粒界ー転位相互作用における物理的反応場としての粒界磁性の評価: これまでに分担者が実施してきた粒界磁気モーメントをより高い空間分解能で測定することを目的として、STEM-EELS法によるSpectrum Imaging (SI)を試みた。Fe-Si合金において、Fe L2,3端の2次元データ取得に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね年度当初計画通り,粒界幾何学と粒界偏析を制御した双結晶を用いた実験研究が進行しており,粒界ー転位相互作用の物理的反応場と考えている粒界磁性(粒界磁気モーメント)の解析手法の検討を予定より早めて開始している。一方,予定していた偏析粒界モデルに対する分子静力学・分子動力学計算による粒界-転位相互作用,転位生成・増殖のシミュレーションについては,海外の研究協力者と検討を始めたところであり,次年度以降の実施をめざしている。
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今後の研究の推進方策 |
1.粒界および粒界近傍の局所力学特性に及ぼす粒界偏析の影響: 令和4年度に実施した方位制御したFe-SiおよびFe-Si-P合金双結晶を用いた実験的研究を継続して行い、系統的研究としてまとめる。さらに,粒界偏析種の異なる試料について同様の実験を行いFe-Si-P双結晶を用いた研究結果と比較検討する。具体的には,鉄に対する粒界強化元素であるボロン(B)に着目するとともに,偏析サイトの影響を調査するために粒界脆化元素であり,かつ置換型元素であるAl(なお,Pは新入型元素)に着目し,ナノインデンテーション試験を行うことにより,粒界ー転位相互作用に及ぼす粒界偏析の影響に関する総合的な理解を目指す。 2.粒界ー転位相互作用における物理的反応場としての粒界磁性の評価: Spectrum Imaging(SI)取得の最適化を図るとともに、幾何情報が既知の双結晶を用いて粒界近傍のSI取得に取り組む。加えて、マッピングとして取得した一連のスペクトルを磁気モーメントとして評価するための解析手法を検討する。 3.粒界ー転位相互作用における化学的・物理的反応場としての粒界弾性率の評価: ナノインデンテーション試験の結果に基づき,偏析の影響が最も顕著に現れた粒界幾何学関係を有するαFe 粒界を選択し,P, Al, Bを偏析させたαFe粒界モデルに対して第ー原理引張試験を行い粒界のヤング率を評価し,粒界-転位相互作と粒界偏析に起因する粒界弾性率変化との因果関係を検討する。
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