研究課題
初年度は、水素置換SrTiO3(SrTiO3-xHx)エピタキシャル薄膜およびバルク多結晶体を合成し、熱電特性の評価および第一原理フォノン計算による熱伝導解析を行った。モデル試料としてSrTiO3-xHx単結晶薄膜を作製し、水素濃度に対する熱電特性の相関を調べた。水素濃度(キャリア濃度)の増加に伴って電気伝導度が増加し、3x1020cm-3において出力因子の最大値20μW/cmK2が得られた。また水素濃度の増加に伴って格子熱伝導率(κL)が3.2W/mKまで減少し、SrTiO3単結晶の12W/mKに対して大きく減少することが確認された。その結果、室温における熱電変換効率ZTは0.14まで到達することが分かった。SrTiO3-xHxのバルク合成については、高温での焼結時に水素が脱離するために、緻密な焼結体の作製が難しかった。放電プラズマ焼結法(SPS)において、水素が脱離しないように金属箔で密閉する工夫を施すことで、高濃度に水素を含有するSrTiO3-xHx焼結体(x=0.057~0.216)を作製することに成功した。また、VASPとALAMODEコードを用いた第一原理非調和フォノン計算により、SrTiO3とSrTiO3-xHx(x = 0.25)のフォノン輸送解析を行った。計算から得られたSrTiO3のκLは室温で8.2W/mKであり、水素置換によってSrTiO3-xHxのκLが2.8W/mKまで減少することが確認され、実験結果と整合した。一般に固溶体では置換元素との質量差によってフォノン散乱が増強されるが、酸素と水素の質量差は16倍もあるにも関わらず、質量差によるκLへの影響は殆どないことが分かった。一方で、Ti-O結合に比べてTi-H結合が非常に弱いために、Ti-O6八面体が局所的に歪み、フォノン散乱が増強されてκLが低減されることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定通り、エピタキシャル薄膜の作製と熱電特性評価を進めることができている上に、独自の焼結手法を開発することによって緻密なバルク作製にも成功した。第一原理フォノン計算による解析を併用して加速的に研究を進めることができている。
H濃度xを制御したSrTiO3-xHxバルク焼結体の熱電特性評価および熱伝導・キャリア輸送特性の解析を行う。第一原理計算を併用して水素置換により低熱伝導率と高出力因子を両立可能な新材料探索を進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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