研究課題/領域番号 |
22H01781
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
北村 尚斗 東京理科大学, 創域理工学部先端化学科, 准教授 (10453812)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 多価イオン二次電池 / 正極材料 / ナノ粒子 / 2体分布関数 / 逆モンテカルロモデリング |
研究実績の概要 |
カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーを蓄えるための二次電池の開発が求められている。このような背景から、リチウムイオン電池を代替する多価イオン二次電池の研究が精力的に行われている。本研究では特にマグネシウム二次電池に注目し、スピネル型構造を有する正極ナノ粒子について正極特性と原子配列の関係を明らかにするため、以下の実験を行った。 これまでの研究成果に基づき、主にスピネル型構造のMgMn2O4とMgFe2O4に注目し、逆共沈法などの液相合成法により得られた前駆体を焼成することによって、各遷移金属イオンを他のカチオンで置換した試料を合成した。これらの試料について正極特性を評価した結果、MgFe2O4とMnMn2O4に対してVを置換することにより、正極特性が改善することがわかった。また、前駆体を熱処理する温度が正極特性に影響を及ぼすことがわかった。さらに、MgMn2O4については種々のイオンを含む水溶液を用いて表面修飾も行った。その結果、Moイオンを含む水溶液を用いることによってMgMn2O4で問題となっている放電容量維持率を改善できることが明らかになった。 原子配列に関する知見を得るため、放射光X線・中性子回折データを用いて結晶構造を検討した。その結果、MgMn2O4とMgFe2O4を母体とする各試料についても、既報の試料と同様に結晶構造の歪みの抑制が正極特性の向上に寄与していることが示唆された。表面修飾したMgMn2O4についても、修飾後に結晶構造がわずかに変化していることが明らかになった。さらに、全散乱測定により得られた構造因子S(Q)を用いてナノ粒子全体の原子の分布を検討した。その結果、Mg0.5Zn0.5Co2O4ではMgとZn周辺の局所構造が大きく異なることがわかった。現在、理論計算を併用して、解析精度の向上と電子構造の評価を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
引き続き、種々の組成の正極ナノ粒子を合成しており、MgMn2O4とMgFe2O4を母体とする試料に対して異元素置換や表面修飾することで正極特性を改善した。また、正極特性と結晶・電子構造の相関関係を解明しており、組成と熱処理条件の検討にフィードバックしている。さらに、全散乱データを用いた逆モンテカルロモデリングによりナノ粒子全体の原子配列の解明が可能になりつつあるため、より高精度の解析法の確立を目指している。 順調に計画を遂行できたため、原子配列を用いた数学的手法(パーシステントホモロジー)による構造情報の抽出を試みており、体系化に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
種々の組成を有するスピネル型構造の正極ナノ粒子を引き続き合成し、原子配列解析を実施する。また、合成条件(熱処理条件)が正極特性と原子配列に及ぼす影響についても、系統的な調査を行う。さらに、数学的手法により原子配列から構造情報を抽出し、組成と合成条件の最適化にフィードバックする。放充電機構についても詳細に検討していく。 具体的には、MgMn2O4とMgFe2O4を母体とする正極ナノ粒子の部分置換体や表面修飾試料を中心に合成し、組成と合成条件が正極特性に及ぼす影響を検討する。構造情報を体系化するため、中性子・放射光X線全散乱データを取得し、得られたデータを用いて逆モンテカルロモデリングを実施する。構築した3次元原子配列から、ナノ粒子の構造情報(原子の分布や局所的な歪み、空間の分布等)を数学的手法(パーシステントホモロジー)により抽出し、構造と正極特性の関係を明らかにする。 さらに、新たに放電後・充電後の電極についてもX線全散乱測定を行い、放充電機構を詳細に検討する。また、理論計算とX線吸収分光法により得られた電子構造の知見をもとに、正極特性の改善を目指す。
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