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2023 年度 実績報告書

多元窒化物の高い圧電性の実態に迫るオペランドXASによる局所構造と元素物性の解析

研究課題

研究課題/領域番号 22H01784
配分区分補助金
研究機関国立研究開発法人産業技術総合研究所

研究代表者

上原 雅人  国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (10304742)

研究分担者 瀬戸山 寛之  公益財団法人佐賀県産業振興機構(佐賀県産業イノベーションセンター産業振興部研究開発振興課、九州シンク, ビームライングループ, 副主任研究員 (30450951)
大曲 新矢  国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (40712211)
平田 研二  国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (40828282)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワードX線吸収分光 / 窒素化合物 / 圧電体 / 強誘電体 / 薄膜
研究実績の概要

令和5年度は静的な構造を詳細に解析するために、種々のSc濃度のScGaNについて極低温でXAFSスペクトル測定を行った。令和4年度に開発した冷却用測定セルを用いることで良好なスペクトルを得ることができた。
また、XANESスペクトルの第一原理計算を進めた。想定される配位構造C6v、D3h、Ohについて種々のSc濃度での構造モデルについてスペクトルを計算し、実験結果と比較することでスペクトルへの配位構造やSc濃度の影響を明らかにすることができた。Sc-K端XANESスペクトルのSc濃度による変化から、Sc周辺はSc濃度の増加と共にC6vからD3hに向かって変化していることが分かった。また、圧電定数が飽和する高いSc濃度ではOh構造の存在も示唆された。一方、Ga-K端XANESスペクトルからはGa周辺の配位構造はほとんど変化しないことが分かった。
さらにGn-XASによるEXAFSの解析も進めた。Sc-K端とGa-K端の両方を同時にフィッティングすることで精度を高め、第1配位殻(Sc-NとGa-N)だけでなく、第2配位殻(Sc-N-Sc、Sc-N-Ga、Ga-N-Ga)も評価できた。その結果、XANES同様、Sc周辺はC6vからD3hに向かう構造遷移と高濃度でのOh構造の形成が確認された。一方で、Ga周辺はC6v構造のままであることが分かった。以上、XANESおよびEXAFSの解析から矛盾のない構造変化が明らかになった。これまで第一原理計算による予測でしかなかった構造変化を初めて実験結果を基に明らかにすることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の目的は、ウルツ鉱型窒化物圧電材料における多元素化による圧電性能向上効果の解明である。X線吸収分光法(XAFS)を用いて、元素ごとに配位構造や結合特性を実測評価し、圧電性能の本質である原子の振舞いを捉え、窒化物材料の多元素化効果の実態を明らかにする。AlNやGaNにScを添加したScAlNやScGaNは優れた圧電性や強誘電性を示し、次世代の高周波フィルタや強誘電体メモリに期待されている。しかし、その機能発現の詳細は第一原理計算での予測に留まっており、今回はこれを実測するこれまでにない取りくみである。これまでにXAFS冷却用高感度セルの開発、第一原理計算によるXANESスペクトル計算方法の確立と種々の構造モデルに関するスペクトルのデータベース化、複数の吸収端を取り扱えるEXAFS解析法(Gn-XAS)の整備に取りくみ、Sc濃度による局所構造の変化がScとGa周辺で異なることなど、ScGaNの静的な構造を明らかにすることができた。以上のことから、本研究はおおむね順調に進捗していると考えている。

今後の研究の推進方策

これまでに開発した高感度冷却セルによるXAFSスペクトルの取得や第一原理計算を駆使することで、ScGaNの静的な局所構造を詳細に知ることができた。令和6年度は、これらの結果を基礎に、オペランド計測に挑む。電界を印可して圧電効果による格子変形のダイナミクスを評価する。これまで整備してきた、第一原理計算による様々な構造モデルのスペクトルと比較することで、格子変形の詳細を探る。
ScGaNやScAlNの高い圧電性を示す窒化物圧電体は次世代振動デバイスへの応用展開が期待されている。また、強誘電性を示すことも明らかになっており、残留分極が極めて高くFeRAMやFTJなど高集積強誘電ストレージメモリへの応用への機運も高まっている。圧電現象や分極反転は格子変形を伴うが、膨大な回数の振動や分極反転を強いる上記のようなデバイス利用には、電界印可時の格子変形の実態を知ることは極めて重要である。先行研究として、KEK-PFでのBaTiO3等ペロブスカイト型酸化物に関する報告例がある。しかし、窒化物圧電材料は共有結合性が高く、また全く異なる結晶構造(ウルツ鉱型結晶)である。これまで静的な構造を明らかにしてきたScGaNについて、同システムを用いて格子変形のダイナミクスを明らかにし、ウルツ鉱型窒化物の圧電性・強誘電性のメカニズム解明に挑む。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Effect of phase transition on the piezoelectric properties of scandium-alloyed gallium nitride2024

    • 著者名/発表者名
      Kenji Hirata, Yu Ikemoto, Masato Uehara, Hiroshi Yamada, Sri Ayu Anggraini, Morito Akiyama
    • 雑誌名

      Journal of Applied Physics

      巻: 135 ページ: 164101

    • DOI

      10.1063/5.0191816

    • 査読あり
  • [学会発表] X線吸収分光法によるScxGa1-xNの配位構造変化の解明2024

    • 著者名/発表者名
      池本勇、平田研二、瀬戸山寛之、大曲新矢、Anggraini Sri Ayu、山田浩志、秋山守人、上原雅人
    • 学会等名
      第37回日本放射光学会年会・ 放射光科学合同シンポジウム
  • [学会発表] XAFS解析によるScxGa1-xN薄膜の配位構造変化の評価2024

    • 著者名/発表者名
      池本勇、平田研二、瀬戸山寛之、大曲新矢、Anggraini Sri Ayu、山田浩志、秋山守人、上原雅人
    • 学会等名
      日本セラミックス協会2024年年会
  • [学会発表] X線吸収分光法によるScGaN膜の局所構造解析2024

    • 著者名/発表者名
      池本勇、平田研二、瀬戸山寛之、大曲新矢、Anggraini Sri Ayu、山田浩志、秋山守人、上原雅人
    • 学会等名
      第71回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] 圧電デバイス用としてのウルツ鉱型窒素化合物薄膜の開発2024

    • 著者名/発表者名
      上原雅人
    • 学会等名
      第199回電子セラミック・プロセス研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] ScxGa1-xNのXANESスペクトル評価による配位構造の解明2023

    • 著者名/発表者名
      池本勇、平田研二、瀬戸山寛之、大曲新矢、Anggraini Sri Ayu、山田浩志、秋山守人、上原雅人
    • 学会等名
      化学関連支部合同九州大会
  • [学会発表] XANES解析によるSc添加が与えるGaNの配位構造の評価2023

    • 著者名/発表者名
      池本勇、平田研二、瀬戸山寛之、大曲新矢、Anggraini Sri Ayu、山田浩志、秋山守人、上原雅人
    • 学会等名
      第26回XAFS討論会
  • [学会発表] スパッタリング法により作製したScxGa1-xN過飽和固溶体のXANES解析2023

    • 著者名/発表者名
      池本勇、平田研二、瀬戸山寛之、大曲新矢、Anggraini Sri Ayu、山田浩志、秋山守人、上原雅人
    • 学会等名
      日本金属学会2023年秋期講演大会

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公開日: 2024-12-25  

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