研究課題/領域番号 |
22H01789
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
富永 洋一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30323786)
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研究分担者 |
臼井 博明 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60176667)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 固体高分子電解質 / Liイオン二次電池 / 電極/電解質界面 / 表面処理 / Liデンドライト |
研究実績の概要 |
本研究では、カーボネート型の固体高分子電解質(SPE)と無機フィラーからなる複合膜をモデル電解質としたSPE型電池の特性改善につながる電極の表面処理・改質法を明らかにすることを目指している。当該年度は、正極にリン酸鉄リチウム(LiFePO4, LFP)を、負極には金属Liを用いた。LFPの表面改質には、大気圧プラズマ処理を用いる。大気圧プラズマ処理によってLFP表面のカーボン層の一部にアミド基などの極性基が導入されることが予備実験によって分かっている。本研究では、LFP表面に生成する官能基の種類や数がSPE界面構造に影響することを想定し、様々な処理条件(導入酸素量, 処理時間など)を検討した。Li負極の表面改質には、大気非暴露で操作が可能な真空蒸着装置を用いた。物理蒸着法によりアクリル酸などのモノマーを被覆後に重合させ、Li表面に高分子の極薄膜を形成する。Li表面において熱的・力学的に安定で、SPEの還元分解およびLiデンドライトの生成を抑制する“人工SEI”としての被膜形成を目指した。一方の電解質には、ポリエチレンカーボネート(PEC)とLi塩からなるSPEをモデルとして用いた。さらに、Li負極とPEC末端OH基との反応を抑制するため、PEC末端のアセチル化を試みた。これにより、Li負極との反応抑制だけでなく、SPEの耐熱性や電池特性も改善することが期待される。極表面改質電極について、水接触角測定により濡れ性評価を、XPS測定により表面および深さ方向の元素分析を、SEM測定により表面形態の観察を行った。これらの研究は、このカーボネート型SPEと電極との間の界面抵抗を低減することで電池特性の改善につながるもので、固体電池としての実用化研究の発展に貢献するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、表面改質電極の作製およびその表面分析・電気化学的評価を行った。正極には市販のリン酸鉄リチウム(LFP)、負極には金属Liを用いた。正極については、作製した合剤正極に大気圧プラズマ処理を施し、XPSや対水接触角測定によって表面処理の効果を確認した。XPS測定の結果、表面処理によって正極表面に窒素由来の官能基が導入されたことが確認された。対水接触角測定の結果からは、正極表面に処理を施したことで接触角が60°以上低下したことが確認された。充放電測定結果からは、未処理正極を使用したセルと比べ、処理正極を使用したセルは放電容量・クーロン効率・サイクル安定性が向上し、分極が低減された。放電容量が向上したことから、正極-SPE間の密着性が向上し、有効活物質量が増加したこと、分極が低減された正極抵抗が低減したことが分かった。一方のLi負極については、既設の大気非暴露型の真空蒸着装置によりPAALiの極薄膜をLi表面に形成することを試みた。Li表面を模倣したAl基盤表面への極薄膜形成を様々な条件で検討し、重量平均分子量1.6×106のPAALiを高真空中で412℃に加熱すると、約6 nm/min の速度で蒸着膜が形成されることが分かった。PAALiのスピンコート膜および真空蒸着膜のIRスペクトルからは、両者がほぼ同一のスペクトル形状示し、PAALiの分子構造を保って蒸着膜を形成できることが分かった。蒸着膜のAFM像からは、平均粗さがPAALiでは8.6 nmであるのに対し、モノマーが6.4 nmであり、平坦性に優れた薄膜が得られることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度までに得られた各電極表面処理の条件および無機フィラーを用いた複合型電解質の作製および最適組成に関するデータをもとに、SPE型固体電池としての最適系を見出す。Li負極の表面分析については、大気非暴露で測定する必要があるため、NIMSの蓄電池基盤プラットフォームの大気非暴露設備を利用し、SEM/EDSによりLi表面に形成されたポリマー薄膜の被覆状態の観察および元素分析を行う。続いて、正・負極およびSNFを複合化させたSPE膜からなるセルの電気化学的評価を行う。CV測定により各界面における酸化還元挙動を、インピーダンス測定により各抵抗成分の分離・解析を行う。様々な条件で作製した正・負極の表面解析結果とインピーダンス挙動との相関を明らかにする。電池作製・充放電特性評価および電極/SPE界面構造解析・モデル決定については、正・負極およびSPEを用いたコインセルを作製する。SPEはLFP正極を結着するバインダーとの利用も検討する。各電池の充放電挙動およびサイクル特性評価を行い、得られるデータを電極/SPE界面の構造解析につなげる。接合後の電極/SPE界面は強く密着していると考えられ、剥離してその表面を分析することは困難なため、接合したままの界面を分析・評価する方法を検討する。NIMS蓄電池基盤プラットフォームの各種分析設備を利用し、集束イオンビーム(FIB)加工を備えたSEMにより各界面の切断面の微細構造観察を行い、Liデンドライトの有無を確認するほか、走査型オージェ電子分光測定(AES/SAM)によりFIB加工断面における元素組成や化学結合状態を明らかにする。これらの分析結果をもとに、最終的には電池特性に優れる電極/SPE界面の構造モデルを決定する。
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