研究課題/領域番号 |
22H01818
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
芹澤 愛 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (90509374)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水蒸気プロセス / アルミニウム合金 / カーボン膜 / 異種界面 / 燃料電池 |
研究実績の概要 |
燃料電池セルスタック重量の約8割を占めるセパレータへのアルミニウム合金の適用を実現させるため、セパレータに要求される特性である高耐食性、高導電性を兼ね備えた多機能性皮膜をアルミニウム合金上に形成することを目的とした。耐食性と導電性という両立しない特性を同時に付与する必要があるため、我々が独自に開発した新規プロセスである水蒸気プロセスを活用し、それぞれの特性に有利な材料を組み合わせたヘテロ構造皮膜を作製することを発想した。具体的には、まずカーボン膜を形成した後ポーラス構造化し、水蒸気プロセスによりポーラス部へ水酸化物を誘導形成させることで、水酸化物とカーボンの異種界面を作り出すこととした。水蒸気プロセス条件の最適化により異種界面形成を促進させ、多機能性ヘテロ構造皮膜をアルミニウム合金上に形成するユニークな手法を確立することを目指した。 本年度は、アルミニウム合金基材上に高耐食性と高導電性を兼ね備えた皮膜を形成するための技術開発を行った。耐食性(一般に酸化物、水酸化物が有利)と導電性(一般に金属が有利)という両立しない特性を同時付与するため、水蒸気プロセスを利用することで多機能性を発現するヘテロ構造皮膜の創製を試みた。従来、耐食性皮膜の作製には、いかに均一な皮膜を緻密に作るか、が鍵であったが、本研究では、このセオリーと真逆の発想で、皮膜をあえてヘテロ構造化する手法を選択した。具体的には、まずカーボン膜を形成した後、熱処理等によってカーボン膜をポーラス構造化し、その後、水蒸気プロセスによりポーラス部へ水酸化物を誘導形成させることで、水酸化物とカーボンの異種界面を作り出し、最終的にポーラス部を水酸化物で完全に充填させた。この手法によって作製したヘテロ構造皮膜は、水蒸気プロセスで作製した水酸化物皮膜に比べ高い導電性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カーボン膜の作製には、スパッタリング法を選択した。Al合金基板、水蒸気プロセスにより作製したSP材およびターゲットとしてカーボンプレートを使用して基板上にカーボン膜を形成させたCS材を作製した。CS材に対して、熱処理を行ったCSH材、その後さらに水蒸気プロセスを施したCSHS材も作製した。各試料両面のSEM像から、SP材では針状の結晶で基板が覆われていることが確認された。CS材、CSH材およびCSHS材においても同様な形状の結晶の形成が観察されたが、CSH材には多くの亀裂や孔径0.05-0.1 μm程度のピンホールが確認された。ここで、CSH材表面のピンホールや亀裂が発生した原因は、熱処理中にカーボンの結晶化が進行したことにより体積が収縮し、結果として空隙が生じたためであると考えられる。また、ラマンスペクトルにおいて、CS材およびCSH材ではカーボン結合の端部およびグラファイト構造に起因するピーク、CSH材でグラファイト構造に起因するピークのみが確認された。CSHS材においてカーボン結合の端部に起因するピークが消失した原因は、AlO(OH)結晶とカーボン膜の結合による欠陥や端部の減少によるものと考えられる。 Al基板および各条件の皮膜の耐食性を評価するため、分極測定を行った。Al基板と各処理を行った試料を比較するといずれの試料も腐食電流が抑制され、腐食電位も貴側にシフトした。各試料の腐食電位および腐食電流密度を比較すると、SP材が最も低い腐食電流密度を示し、CSHS材の腐食電流密度はSP材よりもやや高いものの腐食電位は貴となった。したがって、極めてユニークな手法を用いることでAlO(OH)/カーボンのヘテロ構造皮膜(CSHS材)の作製に成功し、CSHS材は水蒸気プロセス材に匹敵する耐食性を示すことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
スパッタリング法を用いることで、Al合金基板上にAlO(OH)/カーボンのヘテロ構造皮膜を作製することに成功した。今後は、さらに放熱部材等への適用の拡大を目指し、高耐食性と熱伝導性を兼ね備えた皮膜を形成するための技術開発を行う。耐食性(一般に酸化物、水酸化物が有利)と熱伝導性(一般に金属が有利)という両立しない特性を同時付与するため、昨年度に引き続き、耐食性皮膜を形成可能な水蒸気プロセス(気相(水蒸気)と液相(亜臨界水)の混合状態の反応場を活用)を利用することで多機能性を発現するヘテロ構造皮膜を創製する。 耐食性皮膜への熱伝導性の付与には、皮膜の形成過程中に高熱伝導性を有するAlN粒子を熱伝導性ブースターとして導入する。水蒸気プロセスで耐食性皮膜であるアルミニウムの水酸化物皮膜を形成させつつ、AlN粒子を皮膜内に分散させることで、水酸化物とAlN粒子のヘテロ構造皮膜をin situで形成させるための技術開発を行う。具体的には、適切な粒径を有するAlN粒子の選定を行うが、適切な粒子が入手不可能である場合は、申請者がこれまでにカーボン材料等を作製した実績のある液相プロセスで合成する。ヘテロ皮膜内のAlNの分散状態や含有量と耐食性・熱伝導性との関連性を調査し、両物性値の向上に有効なプロセス因子ならびにAlNの粒径や前処理条件を明らかにする。作製したヘテロ構造皮膜に対し、耐食性は各種電気化学測定および強酸溶液中での浸漬試験により評価し、熱伝導性は熱伝導率測定(LFA)を用い、熱拡散率と比熱の実測値により熱伝導率を算出することで評価する。さらに、作製したヘテロ構造皮膜の構造材料への適用可能性を検討するため、引張試験や平面曲げ疲労試験等によってヘテロ構造皮膜の力学特性の評価も行う。
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