本年度の研究においては、さまざまなpHをもつリン酸系電解質水溶液中(リン酸および各種リン酸塩水溶液)にアルミニウムを浸漬して陽極酸化を行った際、どのようなアルマイトが生成するのか、特に塩基性領域に着目して基礎的な研究を遂行した。pHが酸性のリン酸系水溶液を用いてアルミニウムを陽極酸化した場合、従来の酸性電解質水溶液(硫酸やシュウ酸)と同様、ナノスケールの細孔と半球状のバリヤー層からなる典型的なアルマイトが生成した。pHが中性付近でも、従来の陽極酸化挙動と同様、緻密なバリヤー皮膜が生成したが、高温・長時間の陽極酸化では、バリヤー皮膜表面にわずかな細孔が生成した。これに対して、塩基性電解質を用いて陽極酸化した場合には、極めて平滑な底部バリヤー層が生成したり、細孔内壁に無数の凹凸形状をもつ、従来のナノ構造とは異なるアルマイトが得られた。得られたアルマイトをウルトラミクロトームや高速電解剥離法によって薄片化したのち、高分解能電子顕微鏡観察および組成分析を行うと、アルマイトのアルミナ中には不純物の電解質アニオンがほとんど含まれていないことがわかった。この結果は、生成したアルマイトが高い耐食性をもつことを予期させる。通常の陽極酸化では、電圧の低下とともに電流密度は大きく減少するためアルマイトの成長速度は低下するが、塩基性電解質水溶液を用いた場合には電流密度があまり低下せず、低い電圧の陽極酸化によってもアルマイトの高速成長を誘起できる可能性が示唆された。以上の研究結果より、塩基性電解質水溶液を用いたアルミニウムの陽極酸化は、効率良く高い耐食性をもつ不動体皮膜として応用できる可能性が示された。
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