研究課題
本年度の研究においては、(1)比較的pHが高いリン酸塩系電解質水溶液の利用や(2)極低電圧条件における陽極酸化を行うことにより、耐食性に優れた陽極酸化皮膜の形成を試みた。pHが10を超えるリン酸塩系電解質水溶液を用いてアルミニウムを陽極酸化すると、ナノスケールの細孔をもつアルマイトが生成した。1 V程度の極低電圧から100 Vを超える高電圧に至るまで幅広い電圧領域でアルマイトが生成することを見出したが、特に電圧が高い試料表面の外観は白色と金属光沢が混ざった、まだらな模様が観察され、不均一であった。これは、陽極酸化時、pHの高い水溶液においてアルマイトの不均一な化学溶解が生じるためと考えられた。攪拌速度や電極配置などを種々制御して陽極酸化挙動を検討したが、最も均一な皮膜が生成する条件は、水溶液を撹拌しない場合であった。従って、水溶液を撹拌しない場合には、陽極酸化時に水溶液の温度上昇が生じないよう、熱容量の大きな恒温槽を用いる必要があると考えられた。高電圧領域においては、アルマイトの成長界面が超平滑化することを見出した。本研究において用いたリン酸塩系電解質水溶液と従来の硫酸系水溶液の陽極酸化を比較すると、印加電圧5 Vにおいて、リン酸塩系電解質水溶液の方が40倍大きな電流密度が得られた。陽極酸化における電流密度はアルマイトの成長速度に対応するので、リン酸塩系電解質水溶液の陽極酸化はアルマイトを高速成長させることに適した方法であることを明らかにした。生成したアルマイトをアルミニウム基板から高速剥離する技術を確立し、アルマイトを評価した。これらの皮膜に電解質アニオン(不純物)はほとんど含まれておらず、酸や塩基に対しても高い耐食性をもつものと予想された。
2: おおむね順調に進展している
塩基性電解質を用いた新規なアノード酸化と耐食性皮膜の設計に関する基礎研究が順調に進んでいるため、このように自己評価いたします。
次年度の研究においては、pHが13以上の強塩基性電解質を用いた陽極酸化によって生成した均一な陽極酸化皮膜のナノ構造を詳細に理解したい。特に、従来の陽極酸化では困難な、極低電圧における高速・均一陽極酸化法を確立するとともに、そのナノ構造を高分解能電子顕微鏡観察によって明らかにしたい。また、ナノ構造の変化に基づいた濡れ性の制御を試みたい。以上の研究から得られた知見をもとに、耐食性に優れた陽極酸化皮膜を最適設計し、電気化学測定や塩水噴霧試験によって「超寿命アルミニウム材料」としての応用の可能性を評価したい。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)
Journal of The Electrochemical Society
巻: 170 ページ: 073506~073506
10.1149/1945-7111/ace65a
巻: 170 ページ: 073504~073504
10.1149/1945-7111/ace558
アルトピア
巻: 53 ページ: 14~21