研究実績の概要 |
本研究の目的は金属イオンの配位環境と電析挙動の相関を見出すことにある。ここでは過去10年にわたり研究してきたグライム系室温アルミニウム(Al)電析をケーススタディとしつつ、他の系への展開も検討している。 (i)グライム類は低誘電率であるがキレート能を有するため配位能力が比較的高い。よってヘテロ配位子を導入して錯体の対称性を低下させることで脱溶媒和を誘発し、電析速度を向上させることを狙いとして、誘電率の高いカーボネート系溶媒(プロピレンカーボネートなど)を添加した系を検討した。しかし少量の添加でも系が電気化学的に不活性となり、予想とは逆の結果が得られたため、配位環境を含めた調査を継続中である。 (ii)Alイオンまわりの配位環境と電析挙動の関係を調査するために、4級ホスホニウムカチオン(トリヘキシルテトラデシルホスホニウム; P6,6,6,14+)とクロロアルミネートアニオン(主としてAl2Cl7-)からなるルイス酸性イオン液体について検討した。一分子についてのDFT計算により、Al2Cl7-のCl-イオン(Al3+の第一配位圏)がP6,6,6,14+のアルキル鎖水素(Al3+の第二配位圏)と、単独Cl-やAlCl4-にはない特異的に水素結合を有することで長鎖アルキル基が屈曲した構造をとることが示唆された。この分子構造が関与すると思われる特異的な粘性の熱履歴や希釈効果を見出した。粘性の熱履歴は、アルキル鎖が比較的短い通常のイオン液体の場合には見られないものである。用いたP6,6,6,14+の長鎖アルキル基と同じ長さを持つn-テトラデカンをヘテロ溶媒として添加した系においても粘性と電気化学特性のデカップリングを同様に観測した。加えて、室温・無攪拌の条件においてAlナノ粒子の集積による電析皮膜の超平滑化を達成した。
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