研究課題/領域番号 |
22H01840
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 純哉 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (70312973)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ECCI / DHM / 転位挙動 / ADP / 機械学習ポテンシャル |
研究実績の概要 |
革新的な強度・延性バランスを有する自動車用鋼の開発は,車体軽量化を通して資源・環境問題の更なる改善に寄与する。また一方で,脱炭素社会の実現が求められる中,究極的には脱高炉が必然であり,鉄鉱石由来の高級鋼に依らない高強度鋼の実現が求められている。そこで本研究では,従来の高強度鋼開発で見過ごされてきた「せん断型変態組織の潜在的 な塑性変能」に着目し,それを最大限に活用することでリサイクル材由来の電炉鋼による次世代高強度鋼の実現を目指す。 そのために本年度は,せん断型変態組織の低延性化の主因となる極低ひずみ域におけるせん断帯形成のメカニズムを解明するために必要となる,その場計測手法の検討ならびにデータ駆動型動力学ポテンシャルの開発を行った。 その場計測としては,SEM内小型引張試験機とECCIを用いた転位挙動のその場観察と,小型サーボ引張試験機とDHMを用いたせん断帯形成挙動のその場観察を実施するうえで必要となる条件の検討を行い,600度焼戻し材を用いた検討により,転位挙動とせん断帯形成挙動のいずれも詳細に解析できることを明らかにした。 データ駆動型動力学ポテンシャルとしては,古典的なADPポテンシャルとニューラルネットワークをタンデム結合することで,力場とエネルギーの双方で精度の高い予測が可能な分子動力学ポテンシャルが構築できることを示した。また,開発された分子動力学ポテンシャルを用いることで,低角粒界で形成される転位ネットワークが容易に活動することを示唆する計算結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は次年度以降に活用する実験手法ならびに解析手法を検討することを目的としており,いずれも自年度以降の研究で活用できるレベルまでの性能を確保することに成功したため。
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今後の研究の推進方策 |
せん断帯の形成過程のその場計測: 本年度構築したその場計測装置を用いて,組織界面近傍で形成されるせん断帯により生じる表面起伏の変化をリアルタイムに計測するこ とで,せん断帯の形成過程の詳細を明らかにする。また,初年度の研究より明確になったECCIを用いたその場観察手法を併用することで,せん断帯の形成に及ぼす析出物の影響を明らかにする。 データ駆動型分子動力学計算: 本年度構築したデータ駆動型分子動力学ポテンシャルを用いて,ラス界面滑り機構に及ぼす転位組織の影響を明らかにする。初年度の研究により,界面に形成される特異な転位ネットワークがラス界面滑りに大きな影響を及ぼすることが示唆されたが,ここでは特にラス内の転位とラス界面における転位ネットワークの形成機構に関して明らかにする。
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