研究課題/領域番号 |
22H01851
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
長澤 寛規 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 助教 (30633937)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | シリカ膜 / 大気圧プラズマ / 化学気相蒸着法 / ガス分離膜 / 分子ふるい |
研究実績の概要 |
大気圧プラズマCVDは,分子ふるいシリカ膜を常温常圧で超高速に形成できる革新的製膜技術である。本研究では,大気圧プラズマCVDによるシリカ膜構造の精密制御を実現し,分離系に応じたカスタムメイドな製膜を可能とすることを目的とする。具体的には,膜構造や透過特性を定量的に制御し得る製膜条件を明らかにするとともに,10 nmレベルの超薄膜製膜技術を開発することで,大気圧プラズマCVDによる膜構造制御の工学基盤を構築する。 2022年度は,シリカ前駆体の供給濃度や製膜温度が膜構造及び透過特性に及ぼす影響を明らかにし,サブナノスケールで幅広く細孔径を制御できることを明らかにした。大気圧プラズマへの投入電力を一定に保ってシリカ前駆体濃度を変化させると,前駆体当たりのエネルギーが変化し,得られる膜構造が変化した。具体的には,前駆体濃度が低い場合には無機的でシリカ様の構造が得られ,前駆体濃度が高い場合には前駆体由来の有機構造が膜構造に残留した有機無機ハイブリッド構造が得られた。その結果,無機的な構造が得られる低濃度条件では分子ふるいの強い膜が得られ,有機的な構造が得られる高濃度条件では細孔径の大きいルースな膜が得られた。製膜温度を制御すると,温度に応じて膜構造が変化することも見出した。低温蒸着技術である大気圧プラズマCVD法では吸着過程の制御が膜形成において重要であるが,本研究では,製膜温度が高いほど揮発性の高い有機的な中間体の付着が抑制させて,膜構造が無機的に変化することが明らかとなった。その結果,高温で製膜した膜において,極めて高い選択性を有するシリカ膜を得ることができた.以上の結果から,製膜条件の制御によって膜構造及び透過特性の精密なチューニングが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々の製膜条件が膜構造及び透過特性に及ぼす影響を評価し,膜特性の精密チューニングに資する基礎的なデータを取得することができた。2023年度以降に,反応・製膜機構をより詳細に分析することで,本研究で目指している多様な分離系に応じたシリカ膜の構造設計が可能となると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度以降は,構造制御のさらなる高度化に向けて,これまで未検討だった放電ガス組成や電源周波数などのプラズマ発生条件が膜構造や透過特性に及ぼす影響を検討する予定である。上記の製膜結果と,素反応過程解析による反応経路の推定やマイクロトレンチ法による速度論解析を組み合わせて,主要な製膜中間体を推定し,大気圧プラズマCVDにおける反応・製膜機構を理解する。また,製膜プロセスをモデル化することで,理論的アプローチから所望の膜構造を得る製膜条件をバックキャストで設計することを可能とする。超薄膜製膜に向けては,動的平衡状態を利用した製膜について,その制御因子を明らかにするために,イオンの質量や衝突エネルギーに関する検討を実施する。具体的には,HMDSOによる製膜をモデルケースとして,希釈ガス(Arで統一する)に質量の異なるNe,Kr,Xeを混合する,あるいは,支持体にバイアス電位を印加することでエッチングの強度を変化させた製膜を行い,動的平衡状態による超薄膜製膜の制御指針を明らかにする。
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