研究実績の概要 |
実用的な固体触媒の構造や電子状態はナノスケールで不均一であるため、従来の単一的な構造モデルではその本質を掴みきれない。本研究の目的は、遺伝的アルゴリズムによる広域探索とDFT計算による局所最適化を組み合わせた独自の非経験的構造探索法を駆使し、Ziegler-Natta触媒ナノ構造の分布、及び、これがもたらすポリマーの一次構造分布の起源を解明することである。当該年度の実施内容を以下に述べる。 プロピレン重合用Ziegler-Natta触媒は、活性成分のTiCl4と、内部ドナー(ID)と呼ばれるルイス塩基性改質剤によって修飾されたMgCl2ナノプレートによって構成される。IDは触媒調製時にMgCl2の構造を再構成することで立体特異的な活性構造を生成すると信じられてきたが、構造再構成を考慮したシミュレーションは前例が無かった。 本研究では前年度に開発したプログラムを用い、19MgCl2, 4TiCl4, 5IDから成る三元系の構造探索を世界で初めて実施した。結果、ID存在下で生成するMgCl2は、ID非存在下で生成するそれとは表面構造が全く異なることがわかった。すなわち、IDはキレート吸着を通して配位飽和度の高いMg2+エッジを優先的に露出し、隣接した{110}テラスに吸着したTiCl4は須らく特異的な立体環境に置かれる。これは、IDによる立体特異性の劇的な向上を初めて完全に説明するものである。構造の多様性は、IDにフタル酸エステルを用いた時 >> 1,3-ジエーテルを用いた時であった。これは実験的に知られる分子量分布の傾向に合致し、赤外吸光分光で観測されるフタル酸エステルのC=O振動の波数の幅も説明した。 当該年度の研究成果によって、本研究が提唱する「触媒ナノ構造の非経験的構造探索を基盤とする不均一性の計算触媒化学」が、触媒の構造・機能解明において不可欠であることが実証された。
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