研究課題/領域番号 |
22H01876
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 康行 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00235128)
|
研究分担者 |
西川 昌輝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (40843149)
DANOY MATHIEU 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90882621)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ヒトiPS細胞 / 未分化増幅 / 肝分化 / 透析 / 高密度培養 |
研究実績の概要 |
本研究は.ヒトiPS細胞凝集体の浮遊培養において,小型の流加・透析培養システムを構築し,未分化増幅および肝臓細胞への分化における超高密度化とコスト低減の限界を明らかとすることを目的とする.令和4年度においては,小スケールシステムの凝集体の未分化維持増幅において,物理的障害・老廃物蓄積・栄養素枯渇・増殖因子枯渇等の観点から限界を見極める.その結果,十分なジェランガムが存在する条件での高密度化においては,乳酸の除去能力の不足が先に問題となることが分かった.そこで,ホローファイバー透析器を接続した小スケールの灌流培養システムを組み上げ,内胚葉分化において,通常の透析操作と限外濾過操作の比較を行った.簡単な数理シミュレーションからは,限外濾過が乳酸除去効率の点で優れており,より高密度の達成が容易との結果が得られ,細胞フリーの実験では,その通り限外濾過が透析に比べて優れていた.しかし,実際には限外濾過にて内胚葉分化の悪化が見られた.この原因について究明のための各種実験を実施している最中であり,アクチビンAの顕著な濃度低下が主要因であることまでは突き止めた.一方,小規模透析システムでの検討から,肝分化の最終段階においては,それ以前のステージと異なり,増殖因子の供給速度をそのままにした高密度化は困難であった.このステップでの重要な増殖因子である肝細胞増殖因子およびオンコスタチンMの濃度を計測したところ,著しい減少が見られた.またこれらの因子は血管内皮細胞等の間葉系細胞から産生されるため,肝細胞への純化が進む最終ステージにおいては,内部での供給が期待できないと推察された.そこで,これらの添加能濃度を高めることで,高密度化時も安定した肝分化培養を達成することに成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
乳酸除去のシミュレーション結果でより高い性能が得られた限外濾過操作にて,ホローファイバー透析器への増殖因子の吸着が,膜圧をかけない透析操作に比べて激しいという予想外の知見を得た.このような報告は皆無であり,iPS細胞の増殖分化における高密度化,特に培養工学的な視点からは貴重な知見ではある.現在,原因究明のための各種解析を行っているが,培養液中の残存アクチビンAの濃度が限外濾過にて顕著に低下することを確かめており,それが内胚葉分化悪化の主要因であると疑われる.一方従来からの旋回による簡便透析装置については,肝分化で良好な結果を得ることに成功した.最終段階での内因性増殖因子の活用による外因性因子の節約効果が予想外に小さかった原因を,ここで必要とされる増殖因子が肝細胞でなく間葉系の肝非実質細胞から産生されることによる.しかしながら,高密度化による未知の作用のためか,細胞数に必要とされる因子添加速度よりも半分程度の供給速度で十分な肝分化が達成され,コストダウン効果を得ることができた.
|
今後の研究の推進方策 |
乳酸除去のシミュレーション結果でより高い性能が得られた限外濾過操作にて,ホローファイバー透析器への増殖因子の吸着が,膜圧をかけない透析操作に比べて激しいという予想外の知見を得た.今後,乳酸除去能を十分に確保しつつ透析操作を用いてスケールアップを行うこととする.
|