研究課題
本年度は、数層遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)/トンネルバリア/数層TMDという二重量子井戸構造を作製し、作製した構造において共鳴トンネルを観測した。数層TMDがサ ブバンド量子化することを活用し、サブバンド量子化準位間の共鳴トンネルを実現した。TMDとしてWSe2をp型にドープした数層WSe2/h-BN/数層WSe2構造の作製に成功した。それぞれのp型WSe2へのオーミックコンタクトは高濃度p型ドープのp-MoS2を用いることで実現した。この素子構造において、2つのWSe2間に電圧を印加し、2つのWSe2の価電子帯のサブバンド同士の共鳴トンネル効果を実現した。共鳴トンネルの性能を示すピークバレー比として室温で7、低温で21という大きな値を実現した。この値は、これまでに報告されている二次元物質を用いた共鳴トンネル構造と比較して最大の値である。次にn型のWSe2を用いたn型WSe2/h-BN/n型WSe2構造において伝導帯サブバンドの共鳴トンネルの実験も行った。n型WSe2へのオーミックコンタクトについてはグラフェンを用いた。伝導帯サブバンドにおいてもサブバンド準位間の共鳴トンネルを観測した。さらに、本デバイスにおいては2つのn型WSe2の間の相対角度に依存した共鳴トンネル効果を観測した。これはn型WSe2の伝導帯バンドの特異な分散関係を反映しているためと現在考えている。これらの2種類のデバイスの評価により、サブバンド共鳴トンネルデバイスの最適化を達成した。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記載していた計画通り本年度は、数層TMD/トンネルバリア/数層TMDという二重量子井戸構造を作製し、p型WSe2/h-BN/p 型WSe2構造およびn型WS e2/h-BN/n型WSe2構造の両方においてサブバンド間共鳴トンネルの観測に成功した。さらに追加の成果として、p型WSe2/h-BN/p 型WSe2構造において共鳴トンネルのピークバレー比として室温で7、低温で21という二次元物質を用いた共鳴トンネル構造では最大の値を達成した。これらの理由より当初の計画を上回る成果をあげていると考えている。
今後はサブバンド間の遷移に伴う光吸収を実証するための光電流測定を目指して研究を行う。入射光の波長(長波長赤外光)がサブバンド間の遷移エネルギーと一致した時に、光電流の増大が確認できればサブバ ンド間光吸収の存在およびその吸収効率が特定できる。試料構造を最適化することにより、大きな光電流が得られればTMD材料を用いた初めてのサブバンド遷移型光検出器が実現できる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件)
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