研究課題/領域番号 |
22H01901
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
山西 絢介 分子科学研究所, メゾスコピック計測研究センター, 特任助教 (00846115)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 光誘起力顕微鏡 / 円偏光 / キラリティ / 光圧 / 光勾配力 |
研究実績の概要 |
キラリティは、もともとの構造がその鏡像と同一でないことを示す特性であり、異なる掌性を持つ物質は生体に異なる影響を与えることから、その重要性が認識されている。キラリティを持つ物質と円偏光の光が特異な相互作用を示すことを利用し、これまでCD(円偏光二色性)分散測定による物質のキラリティ構造解析が行われてきた。しかし、従来のCD分散測定では、溶液中に分散する分子などの巨視的な応答などしか観測することができない。本研究では、これまでの研究で開発した円偏光が導入できる光誘起力顕微鏡を用いて、局所的な円偏光応答を観測し、単一分子スケールでのキラリティ構造解析を目指す。 今年度は、キラル及びアキラルの金ナノ微粒子の単量体や二量体が生成する局所的なキラル光学効果を、円偏光光誘起力顕微鏡で観測した。球形の金ナノ粒子や金ナノダイマーといったアキラルな構造体を観測した場合でも、これらの微粒子の周辺でキラル光学効果が観測されることを明らかにした。この現象は、探針と微粒子の両方を考慮した時に、探針の形状と位置によってキラル光学効果が現れることによるものであることが、電磁場シミュレーションによる計算によって判明した。さらに、キラルな金ナノ微粒子のL体とD体を観測した時に、キラル光学効果を個別の微粒子レベルで検出し、その掌性を同定できることが確認された。 この研究成果は、キラリティ構造解析の新たなアプローチを提供し、将来的には単一分子レベルでのキラリティ解析や、分子と金ナノ構造体間のスーパーキラル相互作用の観測など、幅広い応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度では予定していた金ナノ微粒子のキラリティ構造解析に成功した。特に探針と試料間のキラリティ由来の双極子間力が個々の微粒子レベルで異なることが明らかになった。この結果により、局所的なキラリティ構造解析とそのマッピングが可能となり、当初の研究目標を達成したと言える。加えてアキラルな構造体でも、探針との相互作用を考慮した場合にキラル光学効果が局所的に変調されることなども新たに発見した。これらの観測結果は、電磁場シミュレーションの結果とよく相関を持ち、理論的な裏付けも得られた。以上の成果から、今年度の研究は計画以上の進展を遂げたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究では、金ナノ構造体と分子間のスーパーキラルな相互作用を、円偏光光誘起力顕微鏡によってナノスケールで可視化することを目指す。この目的を達成するため、従来のEBリソグラフィーによる金ナノ構造体作製方法から、より多くの実験的試行が容易に実施できるナノプリント法による作製方法に切り替える。ナノプリント法で作製した金ナノ構造体にタンパク質分子をコーティングし、タンパク質がコーティングされた基板と、されていない基板の間での局所的なキラル光学効果の変化を、円偏光光誘起力顕微鏡を用いて調査する。さらに、試料をスーパーキラルな相互作用を生み出す金ナノ構造体として利用する他に、探針自身を介してもスーパーキラルな相互作用を生み出すことができると考えられる。そこで、探針との相互作用による、単一タンパク質分子のキラリティ構造解析にも挑戦する。この観測には、基板上に一様な方向で吸着させることが可能な膜タンパク質などを使用する予定である。この取り組みにより、ナノスケールでのスーパーキラル相互作用の知見を深め、物質と円偏光との物理的な理解や応用展開が実現できるようになると期待される。
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