研究課題
本研究では光学的微細構造を用いて遠方場へのふく射量を増大させ、光による冷却能力を向上させることを狙って可視・近赤外域は光冷却、赤外では放射冷却、を対象とする。放射冷却の促進に関して、本研究では高屈折率材料から作製するミクロンスケールの微細構造がどの程度全反射を抑制して遠方場への熱ふく射増強に寄与するか明らかにすることを目的の一つとしている。そのため、今年度は周期的なシリコンピラミッドの作製に取り組んだ。過去にも試作を進めていたが、シリコン基板をマスクする材料をクロミウム薄膜からエポキシ系レジストであるSU8に変更し、またシリコンをエッチングするアルカリ溶液も水酸化ナトリウムから水酸化カリウムに変更した。それらの変更により、以前よりピラミッド形状を持った周期的な微細構造が作製できるようになってきた。2024年度は継続して作製条件を探索し、約1cm角の試料を作製して熱ふく射の実験を行えるようにする。一方、ピラミッドの大きさも配置もランダムなシリコンピラミッドは既に作製できるため、この試料により真空下で遠方場への熱ふく射が大きくなっているか、熱流束計を用いて評価した。まず、先行研究との比較のために、平坦なシリコン基板と半球状のシリコン基板を比較したところ、先行研究と同様に半球状の形状を用いることで遠方場への実効的な熱ふく射増強を確認した。続いて、表面積の異なるランダムなシリコンピラミッドをノンドープシリコン基板から作製し評価した。表面積が大きいと熱ふく射が大きいという相関は得られたが、表面積と熱ふく射量が比例せず、その相関は明らかでない。2024年度は表面積やピラミッド個々の大きさと熱ふく射増強の関係を明らかにしていく。光冷却に関しては、アンチストークス蛍光励起用のレーザーに不具合があり、その修理と調整に時間を要したため、主だった成果は上げられなかった。
2: おおむね順調に進展している
放射冷却の促進に係るテーマに関しては、周期や大きさの異なるシリコンピラミッド構造を作製するための条件出しが進み、周期と大きさが10um程度のシリコンピラミッドを作製できる目途が立ってきた。また、熱ふく射を真空下で評価するための測定系は、既設のペルチェモジュール付き真空チャンバーに熱流束液を取付けたりすることで、試料の熱放射による熱輸送を評価する測定系を立ち上げることができた。既にこの測定系を用いた実験も行っており、表面積に比例しない特異な熱ふく射の増強の兆候を見出した。これらの進捗により、本テーマは比較的順調な進展であると評価した。他方、光冷却に関しては励起レーザーの不調に伴い、進展が停滞してしまった。しかし、合成法をこれまで行っていた水熱合成から管状炉での焼成に変更することでYLFの結晶サイズを数ミクロンのオーダーに留めて置けることが分かり、今後の試料作製を進める上で有益な知見が得られた。2日間水熱合成を行うと、粒径が数十ミクロンに成長してしまい、サブミクロンの微細構造と組み合わせる際には大きすぎることが問題になっていた。以上より、研究全体の進捗としては「おおむね順調に進展している」とした。
放射冷却に関しては、シリコンピラミッドの試料作製を継続し、早く1cm角の試料が得られるようにする。実験を進める中で、シリコンのエッチングは想定よりも温度や濃度に敏感であることが分かってきたため、条件を探索する際はこれまでよりパラメータを細かく調整して、ピラミッドの大きさの異なる試料を作り分けることを目指す。試料作製後には、大きさの異なるシリコンピラミッド構造の熱ふく射の測定を行い、ピラミッドの大きさと熱ふく射増強割合の相関を明らかにする。加えて、揺動熱ふく射を模擬してシリコンピラミッドがある場合の遠方場への熱放射をシミュレーションし、実験結果の解釈に役立てる。光冷却に関しては、発光効率の高く粒径の小さなYLF粒子の合成を目指して試料合成を行う。その後、2024年度後半までに誘電体を用いたフォトニック光学微細構造と金を用いたプラズモニック光学微細構造を作製する。その上にYLF粒子を配置し、基板上のYLF粒子と比べ、発光効率及び冷却能力が変化するか、光学微細構造の光学特性との相関を明らかにし、光冷却の冷却能力向上に繋がる指針を得る。
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