研究課題
温度感受性チャネルであるTRPV1の温度依存的活性化の動態を観察するため、高速原子間力顕微鏡の観察試料を赤外線で急速に加熱できるシステムの構築に取り組んだ。カンチレバーの光てこ用のレーザーに加えて、赤外線のレーザーを同じ対物レンズから照射し、試料を加熱できるようにした。TRPV1の活性化温度と近い相転移温度を有する脂質二分子膜をマイカ基板上に展開し、赤外線加熱によって観察溶液を加熱して脂質膜が相転移する様子を観測した。赤外線の出力を上げると脂質膜の相転移が観測されたが、局所的かつ急峻な加熱は達成できず、参考文献と比較して高い赤外線の出力を必要とした。そのため、脂質膜を相転移させるために必要な赤外線の出力が大きすぎることで、観察溶液の水分が速く蒸発するなどの問題点も生じた。液体の水の吸収スペクトルから観察溶液の温度分布を理論的に考察した結果、現状で用いている赤外線の波長では吸収効率が高すぎて、試料表面に達する前の水の相でほぼすべての赤外線が吸収され、目的の試料表面近傍では赤外線の強度が著しく減衰しているであろうことがわかった。このことが観察試料近傍の過熱効率を下げる原因と考えられるため、今後はチェンバーの水の厚さを薄くするか、赤外線の波長をより吸収効率の低いものに変更する。また、TRPV1のアゴニストおよびアンタゴニストの結合に依存的な構造揺らぎの変化を高速AFMで一分子観測および解析し、論文発表した。
2: おおむね順調に進展している
赤外線加熱システムの最適化には至っていないが、TRPV1チャネルの活性化温度付近まで観察試料を加熱することに成功したため。また、システムの最適化の問題点が明らかになり、今後の方針が明確化したため。
観察チャンバーの水の厚みが局所加熱の問題にならないように、用いる赤外線の波長をより吸収効率の低い波長に変更する。
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