研究課題
ダイヤモンド中の単一NVセンターの電子スピンをセンサとして活用する量子計測によりタンパク質1分子の構造解析法の実現に挑む。ダイヤモンド表面近傍に形成した浅い単一NVセンターの直上表面に、水溶液中で特定の立体構造を持つタンパク質1分子を近接配置することにより、単一NVセンターを中心とする座標系において、タンパク質を構成する原子の核スピンの位置を高精度で計測できる技術を構築することが最終目標である。このために、2022年度は下記の計測の実行可能性を実験的に評価した。[1] 単一NVセンターを用いたNMR計測および検出範囲内の個々の標的核スピンの相対位置座標を計測するために、マイクロ波・レーザ光のパルス照射と単一光子検出を同期できるLab-madeの共焦点顕微鏡を改造して、安定で再現性の高い測定系の構築と高感度化を図る。[2] 表面近傍に形成した浅いNVセンターMW波パルスシーケンス制御により、選択的にノイズを除去(量子ロックイン検出等)することでコヒーレンス時間を延長し、さらに標的核スピンからのNMRシグナルのみを選択的に抽出する。この手法を用いて、タンパク質の構造解析の前段階の段階的な取り組みを始める。具体的には、固相系NMRへの拡張として、ダイヤモンド表面上に形成したフッ素単分子膜中のフッ素核スピンの検出を達成する。[3] 単一イオン注入の高い位置制御性を利用してダイヤモンド表面にナノ構造配列を形成するプロセスを構築し、個々のナノ構造中に単一NVセンターを形成するプロセスを構築する。ナノ構造の有する高感度化と量子ヘテロダイン法との統合により、NMR周波数分解能の向上を目指す。
2: おおむね順調に進展している
2022年度において達成した、ダイヤモンド表面に製膜した単分子膜中の1Hおよび19F核スピン計測、および、ナノピラー形成による量子ヘテロダイン計測のSN比向上の成功を受けて、2023年度には真空中液体窒素温度での量子計測系へとパルス光ODMR測定系を改造した。単一NVセンターを用いた各種パルス光磁気計測が真空中で実行可能となり、マイナス100℃付近までダイヤモンド基板を冷却できたが、コヒーレンス時間(T2)は室温時から大きく変化しなかった。液体窒素を真空チェンバ内に導入するための配管部分ではマイナス200℃付近まで冷却できていることから、サンプルホルダーの可動性を確保するための銅メッシュの熱伝導性に問題があることまで判明しており、2024年度にはこの不具合を解消して、核スピン計測のセンサとなる単一NVセンターが十分なコヒーレンス時間(T2)を持つように達成する。以上は2023年度に抱えることになった課題であるが、他方では、2023年度に(1) 統計的手法による量子ヘテロダイン計測結果の推定、および、(2)安定ラジカル分子の二重電子共鳴計測を達成した。通常、単一NVセンターを用いる量子計測では、多数回(数時間以上の長時間計測)を実行した後でFFT等により分子構造同定のための周波数スペクトルを得る。(1)では、分解能は低いものの、リアルタイム(1秒以内)にスペクトルを得ることができることを実験的に示した。また、(2)では、安定ラジカルの分子構造(超微細相互作用)がNVセンターをプローブとする電子二重共鳴計測により取得できる手ごたえを得た。
昨年度には真空中液体窒素温度での量子計測系へとパルス光ODMR測定系を改造し、単一NVセンターを用いた各種パルス光磁気計測が真空中で実行可能となったが、冷却性能に課題を残した。冷却系の設計を見直し、2024年度にも継続して改良を施し、液体窒素温度に十分に冷却できるようにする。昨年度に達成した統計的推定を用いた周波数スペクトルのリアルタイムモニタリング手法について、昨年度には量子ヘテロダイン法に適用して統計的推定を実行することの優位性を示すことができたが、単一NVセンターを用いる他の量子計測手法にもこれを拡張できることを実証して特許化を目指す。核スピンでなく、安定ラジカル分子中の電子スピンとNVセンター電子スピンの電子二重共鳴の有効性を昨年度に示すことができた。上記の真空中液体窒素温度での量子計測系へのパルス光ODMR測定系の改良と合わせて、最終ゴールである1分子タンパク質の構造解析手法の構築を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (15件)
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