研究課題
本研究初年度の目標として、表面プラズモンの伝播方向を軌道角運動量によって制御できるバレー分極を示すプラズモニック結晶、すなわちバレープラズモニック結晶の詳細な設計を計画していたが、これは無事に完了した。設計には有限差分時間領域法による電磁場シミュレーションを用い、金属ナノ構造が周期的に配列した系をモデルとして、各構造パラメータを選択した。また、このバレープラズモニック結晶上に鉛ハライドペロブスカイト薄膜を成膜する技術が確立され、本研究で目標とする任意の波長の光吸収を示す物質を介したバレー分極プラズモン伝播のアクティブ制御に関する実験へ進むことができるようになった。そのようなバレープラズモニック結晶と半導体とが組み合わさった複合系の中での局所的な物性評価に、走査透過電子顕微鏡を基盤としたカソードルミネセンスを用いることを計画しており、その準備として半導体からの蛍光の寿命測定を実施したが、その中で、これまで確立されていなかった半導体からのカソードルミネセンスのダイナミクスに関する重要な知見を思わぬ形で得た。その知見は本研究の目的達成に直接的に影響しないが、今後のカソードルミネセンスによるナノスケールの光物性研究一般に進展をもたらす波及効果が期待される。またバレープラズモニック結晶と半導体の複合系における光スイッチ特性を計測するためのレーザー顕微鏡も、予定どおり無事に調整され、2023年度以降の研究計画を滞りなく遂行できる状況にある。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定どおり、バレープラズモニック結晶の詳細な構造パラメータを含む設計が完了している。また、半導体と組み合わせた系における光スイッチ特性を計測するためのレーザー顕微鏡のセットアップも完了している。さらに、バレープラズモニック結晶と組み合わせる物質として、当初計画にあった遷移金属ダイカルコゲナイドだけでなく、鉛ハライドペロブスカイト薄膜も選択できるようになった点など、当初計画以上の展開があった事項もある。半導体からのカソードルミネセンスのダイナミクスにおける重要な発見も、当初計画以上の展開として特筆すべき事項である。一方、バレープラズモニック結晶自体の実験的な特性評価が不十分であり、この点については2023年度に重点的に行うことで遅れを取り戻す必要がある。以上を総合して、おおむね順調に進展していると評価できる。
バレープラズモニック結晶と半導体とを組み合わせた系の作製は順調に進行しており、その巨視的な、あるいは局所的な応答を調査する目途もたっている。当初の計画どおり、これを推進するという判断が合理的である。ただし、初年度の研究で、当初想定していなかった展開も2点示唆されている。1点目はバレープラズモニック結晶と鉛ハライドペロブスカイト薄膜との組み合わせである。これは当研究グループが利用可能なカソードルミネセンスならびにレーザー顕微鏡といった測定系に大きな変更を加えることなく研究可能であり、当初計画に支障をきたさない範囲で、展開する予定である。もう1点目はカソードルミネセンスのダイナミクスに関する重要な発見であり、これを深めることは基礎的研究として大きなインパクトをもたらす可能性がある。これも当初計画に支障をきたさない範囲で、追加研究事項とする予定である。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)