研究実績の概要 |
本年度はまず、ハイスループット計算に基づいて固溶体を形成する有機半導体分子の組み合わせの探索を行った。ホスト分子はDNTTとした。DNTTの結晶構造中の一つの分子を慣性テンソルの主軸が一致するように別の分子に置換し、構造最適化を行った後、エネルギーを計算した。エネルギー計算には古典力場計算と分散力補正密度汎関数理論(DFT)計算の両方を採用した。得られたエネルギーを基に、基底関数重なり誤差(BSSE)を補正しながら、フローリー・ハギンス理論のχパラメータを算出し、χパラメータが0に近いほど固溶体を形成しやすいとして探索した。その結果、実験で固溶体を形成することが既知のゲスト分子DBTTFと比較して、より絶対値が小さなχパラメータを持つ有機分子が112個見つかった。これらの内、市販品かつHOMOが浅いまたはLUMOが深い分子として、ペンタセン、2,8-dimethylanthra[2,3-b:6,7-b']dithiophene、α-quaterthiopheneを購入して共昇華法による固溶体結晶作製を行った。その結果、DNTTとペンタセンの共昇華によって成長した結晶はそれぞれ単体のものと異なる色および粉末エックス線回折パターンを示し、固溶体を形成している可能性が示唆された。2,8-dimethylanthra[2,3-b:6,7-b']dithiopheneとα-quaterthiopheneについては昇華点の違いにより現在のところ混合結晶は作製出来ていない。以上より、本年度はハイスループット計算に基づいてDNTTとペンタセンが固溶体を形成することを予測し、実験によって検証することに成功した。
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