研究課題/領域番号 |
22H01933
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
荒井 俊人 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 独立研究者 (40750980)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 結晶構造制御 / 界面制御 / プリンテッドエレクトロニクス / 有機半導体 |
研究実績の概要 |
溶液の塗布により電子デバイスを作製するプリンテッドエレクトロニクス技術がここ数年で大きく進展し、軽量かつ柔軟な電子デバイス製造への応用が現実的になってきている。特に、薄膜トランジスタ(TFT)に適した、有機半導体の開発と、塗布プロセスの進化の相乗効果により、高いスイッチング性能を示す有機TFTの構築が可能になってきた。一方で、デバイス移動度の向上は依然として大きな課題となっている。そこで、本研究課題では、こうした有機TFTにおける高効率なキャリア輸送を実現するために、薄層内隣接分子間の「軌道の重なり」を設計・制御する技術の開拓を進める。本年度はこうした軌道の重なりを設計するために、分子配列の安定性について調べた。特に、昇温に伴う結晶の相転移について重点的に調べるとともに、電子ドナーおよびアクセプターからなる共結晶の構造的特徴について調べた。 薄膜の昇温観察をもとに、ベンゾチエノベンゾチオフェン(BTBT)骨格を炭素数nの直鎖アルキル基で置換したモノCn-BTBT系において、薄層内部の映進対称性が顕著な変化を示すことを見出した。この相転移の起源を、異なるアルキル鎖長nに対する系統的な量子化学計算や熱物性測定から調べた。これにより、隣接するアルキル鎖間・BTBT骨格間の相互作用が競合することで構造選択が起こっていることを明らかにした。本研究により、異なる層内配列多形を制御するための指針が得られた。 さらに、電子ドナーおよびアクセプターからなる共結晶(DA)の構造的特徴について調べた。BTBT誘導体と、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)のフッ素置換体を用いてDA化合物を作製した。得られた結晶の構造解析から、14種類のDA化合物で同型の層状配列構造が得られることを明らかにした。分子間相互作用の解析から、この構造の安定性を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の取り組みにより、π電子骨格が全く同じ分子でも、薄層内分子配列の対称性の違いによりデバイス移動度が10倍以上変化することを明らかにした。さらに、こうした層内配列の制御が、π電子骨格に導入する置換基の種類や長さにより、ある程度合理的に制御できることが明らかとなった。これは、新たなπ電子骨格を設計・合成する際の置換基選択に指針を与えるものである。また、こうした検討に加えて、電子ドナーおよびアクセプターからなる共結晶(DA)においても、特徴的な配列構造が得られることや、ある種の有機半導体において分子の混合結晶化により高性能化に有利な秩序構造を形成できることなど、付加的な成果が得られ、それらを誌上発表するに至っている。こうした取り組みにより、層内で隣接する分子軌道の重なりを設計・制御するための基盤が、研究計画よりも早い段階で確立できつつあり、本課題はきわめて順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり、本研究課題はこれまできわめて順調に遂行されている。本年度の研究により、層内分子配列の対称性制御が、キャリア輸送特性に大きな影響を及ぼすことがわかった。そこで、今後は層内で隣接する分子間の軌道の重なりを、より合理的に最適化していくための分子に導入する置換基・置換位置の設計について指針を獲得する。また、実際にいくつかの有機半導体を用いて、急峻なスイッチング特性を示す有機TFTを作製し、安定して高い移動度を得るための指針を獲得する。また、得られた知見をもとに新材料の開発を推進する。
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