研究課題/領域番号 |
22H01934
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
澤 博 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50215901)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 放射光X線回折 / 磁性 / 電子密度解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、我々が独自開発した価電子密度分布の直接観測法を適用し、スピン-軌道-構造の関係の解明、及び強力永久磁石 Ln2Fe14Bにおける4f 電子軌道と磁性状態の関連の解明である。初年度は、精密解析を行っているSPring-8のビームラインに最近設置された検出器の性能及び系統誤差等が解析に及ぼす影響を精査することと、Ln2Fe14BのLnサイトをNdとした場合の価電子密度解析を行う計画であった。この本実験に先立って、大学の研究室に既設されたX線回折装置で試料のチェックを行う必要があったが、修理が必要となったために、本測定を行うための試料チェックに影響が出たため、計画を大幅に後ろにずれ込むことを余儀なくされた。これらの作業が完了したのちに以下の研究を進めた。 まず、すでに物性について詳細が分かっているスピネル型酸化物FeV2O4を標準物質と位置づけて、縮退軌道の詳細な電子状態の観測を様々な測定条件で行った。この結果、今まで分解能不足によって得られなかった軌道状態の異方性を精度よく得られるようになってきた。精密解析するための測定条件と解析手法の詳細について情報が蓄積されつつある。結果として、理論的にはあまり明確に議論されてこなかった3d遷移金属であるFe, Vにおいてもスピン-軌道相互作用が重要な役割を演じていることが明らかになりつつある。これに伴って、ランタノイドの電子軌道状態についても同様に詳細な観測条件の精査の必要性が再確認された。すなわち、この観測結果を保証するための測定技術の高度化、最適な解析手法の更なる検討が必要であることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
価電子密度解析を行う上で、放射光の安定度とエネルギー分解能、及び入射ビームの均一性が大きな影響を及ぼす。これらについて、SPring-8のスタッフとも相談して光学系の改良を行って頂き光の質は安定して向上した。しかしながら、フラックス量が4割程度減じてしまったために測定条件が過去の経験値から変わってしまった。また、検出器はもともと設置されていた光子積分型のイメージングプレートから、光子計数型のPILATUSに変更されたため、測定に用いる放射光の質に合わせた新しい検出器の装置パラメータについても検討が余儀なくされ、2022年度まではこれらの検証を系統的に行った。ある程度の改善などがみられたが、測定時間(正確には測定に依存した装置の自動準備時間)がかなりかかってしまっているため、これらについて検討・調整を繰り返している。 一方で、適切な条件での測定を行うことで、価電子密度解析が適切に行えることが分かってきた。そこで、本研究の目的物質の一つであるNd2Fe14Bの単結晶試料の測定を行い始めた。一回のビームタイムで温度依存性や精密測定のための条件出しなどを行うため、半期に2回程度のビームタイムで順次測定を行っている。現状ではNdの4f軌道の電子密度分布の異方性だけではなく、驚くべきことにFe層についてもサイトごとに異方性の異なる電子密度分布が観測された。Nd2Fe14Bは金属的な強磁性体であるため、特にFe軌道についてはサイト依存性については過去に考慮されてこなかったが、特徴的なハニカムネットワークを形成することが明らかとなりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
強力磁石において4f電子の軌道状態がFeの3d軌道状態に与える影響がおぼろげながらわかってきた。特に過去に強力磁石として注目されていたSmCoや現在開発が進められているSmFeNなどと同様なFeのハニカムネットワークが、強力磁石の性質に大きく影響することが示唆されている。そこで、現在はランタノイドの種類を順次かえて測定を丁寧に行うとともに、温度などの条件を変えた場合にどのような変化が見込めるかを、実際の測定に先立ってシミュレーションを行うことも含めて、順次行っていく計画である。 一方で、スピン-軌道相互作用を明らかにするためのスピネル構造を有するFeV2O4及び同型物質の精密測定については、ドメイン解析の手法を模索していく。いくつかの測定条件と解析手法の組み合わせで、相転移前後の軌道状態の変化が明らかに得られるかどうかを検証する。
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