研究課題/領域番号 |
22H01936
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
塩田 陽一 京都大学, 化学研究所, 助教 (70738070)
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研究分担者 |
荒川 智紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (00706757)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン波 / マグノン / 人工反強磁性体 |
研究実績の概要 |
磁性体中を伝搬するスピン波はスピン流の担い手になりえることが知られており、このスピン波スピン流は伝導電子スピン流に比べて散逸の小さい伝搬方法である。反強磁性体におけるスピン波は強磁性体にはない回転極性を有するため、スピン波スピン流に「偏光」制御という新たな自由度を追加できることが理論的に提案されおり、実現が期待されている。しかし、これまで反強磁性体における磁化制御の困難さから実験的な実証は手付かずであった。そこで、本研究では反強磁性体に比べて交換結合の弱い人工反強磁性体に着目した。 本年度は、まず、Co/Ni多層膜を磁性層に持つ垂直磁化人工反強磁性体をスパッタリング法により作製し、Co/Ni多層膜の膜厚比・積層回数およびRuスペーサー層の膜厚の最適化を行った。Co/Ni多層膜に関しては、なるべくダンピング定数が小さく、かつ膜厚を厚くしても垂直磁場下での残留磁化が垂直であることを条件とし、最適化を行った。その結果、Co(0.6nm)/Ni(0.2nm)で10回繰り返しの構造でも垂直磁化膜を得ることができた。 次に円偏波マイクロ波を発生させることができるストリップ導波路を用いて、ベクトルネットワークアナライザおよびハイブリッドカプラを組み合わせた極性分解磁気共鳴測定を行った結果、磁気共鳴の回転極性を直接観測することに成功した。また、シミュレーション計算によって、回転極性の異なる磁気共鳴モードが縮退する条件において、様々な極性状態を作れることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
回転極性の異なる反強磁性共鳴モードを広い周波数帯域で測定した例は無い。本研究では、研究代表者と分担者の強みを融合し、最適な条件を探ることで人工反強磁性体における極性分解磁気共鳴測定に成功したものである。また得られた結果は英文学術論文誌に掲載された。以上の理由から(1)と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
人工反強磁性中のマグノンをスピン波スピン流として利用するためには、マグノンの伝搬を観測する必要がある。今後はこれまでに得られた結果に基づき、さらに磁性膜に微細加工を施して、伝搬マグノンの極性検出を目指して実験を進める予定である。 またマグノンの磁壁の相互作用に向けた実験方針についても検討を進めていきたい。
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