研究課題
本年度は、有機反強磁性絶縁体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clで理論予想されている熱流誘起スピン流の実験的検証を行った。具体的には、熱流によって生成された純スピン流が試料端に蓄積(スピン蓄積)することで生じる局所磁化を、前年度までに開発した「電流/熱流印加中でも精密に局所磁気測定が可能な走査型SQUID顕微鏡システム」を用いて測定した。結果として、熱流を40 mWまで印加しても、試料端に有意な磁気信号は現れず、スピン蓄積を局所磁化信号として観測することはできなかった。今回の測定温度がT = 5 Kと比較的低温であったが、ネール温度(T = 22 K)付近で最もスピン蓄積量が大きくなることが理論予想されている。現在、ネール温度を超える30 K程度まで局所磁気測定ができるように改良に取り組んでいる。完了後には、ネール温度を跨ぐ温度領域での測定にも挑戦し、スピン軌道相互作用の小さな有機試料でもスピン流が生成できる可能性を磁気顕微鏡を使って証明したい。上記の研究以外にも、磁気トロイダル金属HoAgGeにおける非線形横伝導測定を磁場中で行った。その結果、フェリ磁気トロイダル相にはドメインが存在し、電流と磁場を組み合わせることで予想通りコントロールできることが分かった。また、強トロイダル金属UNi4Bの非相反伝導を試料各場所で測定したところ、その信号の符号が測定位置によって変わることが分かった。これは、磁気トロイダルドメインが存在していることを強く示唆した結果である。さらに、磁場を印加してUNi4Bの非相反伝導を測定したところ、高磁場で磁気転移を示すと同時に、非相反伝導がほぼ消失していることが分かった。これらの結果は、磁気トロイダルモーメントによって非相反伝導が出現している強い証拠である。この内容は、既に日本物理学会などで発表しており、現在論文執筆中である。
3: やや遅れている
上記(研究実績の概要)で報告した通り、前年度構築した「電流/熱流下でも精密に局所磁気測定が可能な走査型SQUID顕微鏡システム」を用いて、有機反強磁性絶縁体で理論予想されている熱流誘起スピン流の実験的検証を行った。残念ながら現状では、スピン蓄積の兆候を捉えることができなかったが、システムを改良してスピン蓄積量が最大となるネール温度付近で再挑戦する予定である。
今後は、30 K程度まで測定できるシステムに改良した後、再度、κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clで予想されている熱流誘起スピン流の実験的検証をネール温度付近で実施する。また、可能であれば、Geの軌道流やUNi4Bの磁気トロイダルドメインの直接観察にも取り組む。
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