研究課題/領域番号 |
22H01952
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関 宗俊 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (40432439)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | スピン波 / スピネル型酸化物 / 酸化鉄 / スピングラス |
研究実績の概要 |
本年度は、ヘテロ接合型スピン波変調素子の実現に向けて、比較的単純な結晶構造を有し、多種の結晶基板上で薄膜のエピタキシャル成長が可能なスピネル型鉄酸化物に注目し研究を推進した。特に、軌道角運動量を持たない鉄イオンFe3+(L=0)のみから構成され、比較的低いGilbertダンピング定数が期待できる欠損スピネル型γ-Fe2O3(マグへマイト)に焦点を当てた。パルスレーザ堆積法によって作製された薄膜試料を大気中でアニールすることによって、結晶性が極めて高いγ-Fe2O3薄膜を得ることができた。また、このγ-Fe2O3薄膜の表面上に電子ビームリソグラフィによって導波路を形成した。この構造を用いることによって、室温においてスピン波の伝搬を観測することに成功した。今後は、このγ-Fe2O3/Nb:SrTiO3構造を用いたスピン波変調素子(マグノンFET)の作製を行う予定である。また、本年度はスピン波の光制御の実現を目指し、イットリウム鉄ガーネット(YIG)を母体材料に用いたスピングラス薄膜の作製実験も実施した。組成や結晶成長条件を最適化することによって、室温を超えるスピン凍結温度が得られ、光照射による磁化の変化(グラス相の光融解)を室温で観測することに成功した。また、磁気緩和過程を詳細に解析した結果、このガーネット型スピングラス薄膜では、レプリカ対称性の破れ(RSB)が起こって多谷ポテンシャルエネルギー構造が形成されていることが示唆された。さらにこの薄膜においてスピングラスに特有のメモリ効果とエージング効果を室温において観測することにも成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘテロ接合素子作製のためには、様々な結晶構造を有する電極基板上での薄膜成長が必須であるが、γ-Fe2O3は準安定相で結晶成長が困難であり、as-grownの薄膜の結晶性は著しく低く、スピン波の伝搬を観測することができなかった。そこで、安定相であるスピネル型Fe3O4の結晶薄膜を作製してから大気中アニールによる大気中で熱処理するといった二段階の作製手法を用い、γ-Fe2O3の高品質な単結晶薄膜を得ることができた。この手法では格子不整合の大きな基板上でも薄膜形成が可能であることが分かり、特に電極基板であるNb:SrTiO3基板上でも結晶性の高いγ-Fe2O3の単結晶薄膜が作製できることを確認している。これはヘテロ接合型スピン波制御素子の実現に向けて極めて重要となる成果と思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
電極基板上にγ-Fe2O3/Nb:SrTiO3薄膜を形成したヘテロ構造を用いてスピン波変調素子の作製を試みる。具体的には、γ-Fe2O3薄膜上にLiイオン固体電解質やイオン液体を形成し、電圧印加によるイオン注入とそれに伴うFeイオンの価数変化を利用し、γ-Fe2O3相におけるスピン波伝搬特性の電界変調の実現を狙う。また、ガーネット型スピングラス薄膜においては、スピン波伝搬特性を詳細に検証するとともに、エピタキシャル歪の導入によってスピン凍結温度の更なる上昇を目指す。また、室温において光照射前後でのスピン波伝搬特性についても詳細に調べ、光変調素子応用への可能性を検証する。
|