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2023 年度 実績報告書

液体金属電子源による次世代超高輝度電子源の開発

研究課題

研究課題/領域番号 22H01955
配分区分補助金
研究機関静岡大学

研究代表者

根尾 陽一郎  静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (50312674)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2027-03-31
キーワード液体金属 / ガリウム / チャイルド・ラングミュア / 電界放射陰極 / 空間電荷制限電流
研究実績の概要

タングステン(310)電界放射電子源は発明以降50年にわたり輝度の最高値を有している。に代わる次世代の電子源を開発する事が最大の目的である。本研究では液体金属を表面拡散したタングステン電界放射陰極が、従来よりも二桁以上の電流を長時間安定に放出可能であることを見出した。さらに電流ー電圧特性は電界放射にも関わらず空間電荷制限電流まで到達する性能である事を確認している。
従来であれば表面温度はジュール熱によりタングステンの融点を優に超える。しかし二桁以上の放射電流においても、チップは安定して動作する。また100時間を超える動作も確認された。
ガリウム液体金属を表面拡散したタングステン電界放射陰極の特性を評価した。この結果、放射電流(I)-電圧(V)特性がChild-Langmuir’s lawの空間電荷制限電流に漸近する事が実験的に確認された。しかし空間電荷制限電流はカソード表面の電界をゼロとしPoisson方程式から導出した結果であり、電界放射とは導出課程や前提条件が異なる。Dyke, Lauらの数値計算アプローチを利用してI-V特性の解析を行った。この結果、低電流密度ではFowler-Nordheim Eq.に従い、106A/cm2以上の大電流密度領域において空間電荷制限電流に漸近する事を確かめた。また空間電荷制限電流を考慮した有限要素法荷電粒子軌道計算を行い、大電流領域ではアノード電圧の増加分は、空間電荷に遮蔽され、チップ先端の電界強度の変化は抑制されている事を確認した。
この特異な放射特性にはガリウム液体金属による温度補償が働いていると考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究開始時には、放射電流が二桁以上増加するメカニズムとして仕事関数の低下を想定していた。しかし現時点では、ガリウムの蒸発時の気化熱による放熱過程によりチップ先端の温度が融点以下で維持されていると考えられる。従来はジュール熱により100uA程度で融点に到達するが、本研究では10mAであっても融点よりも低い温度で維持されるため、大電流放射が可能となったと考える。
今後は、このメカニズムについて詳細な解析と進め、積極利用を考える。

今後の研究の推進方策

これまでに得られた実験結果の中で、大電流を長時間安定に放出可能である事より、エミッションサイトの温度が融点以下に抑制されている事は明らかである。本年度はエミッションサイトの正確な温度測定をする事を目的とする。方法は以下の2つを検討している。
①黒体輻射スペクトル:大電流放射時には、エミッションサイトの極微小領域のみが発光することが高感度カメラで確認された。微小領域の発光を正確に取り込む光学系と液体窒素冷却の高感度検出器を用いた分光器による発光スペクトルの取得を行う。タングステンの放射効率を考慮した輻射スペクトルと比較する事で温度を推測することが可能となる。
②放出電子のエネルギー分布:母材の温度を考慮した電子状態密度と各エネルギー位置でのトンネル確率より放射電流のエネルギー分布を計算する事が可能である。リターディング式エネルギー分析装置によりエネルギー分布を実測する事で温度を推測する事が可能となる。これらの情報を用いて、エミッションサイトの温度を正確に把握し、ガリウムによる温度抑制のメカニズムを解明する。これらの知見は、ガリウムを必要としない大電流放射可能な電界放射陰極の開発には必要不可欠である。

温度測定のため、微弱な光検出に経験のある共同研究者を追加する。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Self-joule heating assisted field emission following the Child?Langmuir law2023

    • 著者名/発表者名
      Neo Yoichiro、Oda Rikuto、Moon Jonghyun
    • 雑誌名

      Journal of Vacuum Science & Technology A

      巻: 41 ページ: 063104-1

    • DOI

      10.1116/5.0159964

    • 査読あり
  • [学会発表] 空間電荷制限電流領域で動作可能な新しい電界放射陰極におけるジュール熱の影響2024

    • 著者名/発表者名
      小田陸人, 佐藤 宏樹, 文 宗鉉, 根尾 陽一郎
    • 学会等名
      第71回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] Photocathode with plasmonic structure fabricated by using molding method2023

    • 著者名/発表者名
      Kishimoto, Yoichiro Neo, and Jonghyun Moon
    • 学会等名
      The 14th International Vacuum Electron Sources Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] Field emission from tungsten coated with Ga liquid metal2023

    • 著者名/発表者名
      Rikuto Oda, Yoichiro Neo, Jonghyun Moon
    • 学会等名
      The 14th International Vacuum Electron Sources Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] Far-UVC電界放射ランプの開発2023

    • 著者名/発表者名
      根尾陽一郎,橋本凱,松本貴裕
    • 学会等名
      第393回蛍光体同学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 自己ジュール熱支援型電界放射陰極の特性評価2023

    • 著者名/発表者名
      小田陸人, 根尾陽一郎, 文 宗鉉
    • 学会等名
      電子情報通信学会 電子デバイス研究会
  • [学会発表] 空間電荷制限電流で動作する自己ジュール熱支援型電解放射陰極2023

    • 著者名/発表者名
      根尾陽一郎, 小田陸人, 安藤大貴, 高藤裕太, 文 宗鉉
    • 学会等名
      電子情報通信学会 電子デバイス研究会
  • [学会発表] 運動量と放出方向を一致させたプラズモニック結晶ホトカソード2023

    • 著者名/発表者名
      岸本透弥, 根尾陽一郎, 文 宗鉱
    • 学会等名
      電子情報通信学会 電子デバイス研究会
  • [学会発表] 液体金属ガリウム被覆したタングステンからの電界放射特性2023

    • 著者名/発表者名
      小田陸人, 根尾陽一郎, 文 宗鉉
    • 学会等名
      第84回応用物理学会秋季学術講演会
  • [学会発表] 転写モールド法によるプラズモニック結晶ホトカソードの作製2023

    • 著者名/発表者名
      岸本透弥, 根尾陽一郎, 文 宗鉱
    • 学会等名
      第84回応用物理学会秋季学術講演会

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公開日: 2024-12-25  

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