研究課題
電子エネルギー損失分光法(EELS)の中でも内殻電子励起スペクトルの微細構造(ELNES)は終状態の電子状態に関する情報を反映する。この分光法と走査型透過電子顕微鏡(STEM)を組み合わせた手法を用いることで、これまで電子軌道を反映した電子顕微鏡像の実験的な手法と実証について研究を行ってきたが、その正確な解釈については他の理論グループの研究結果においても不明な点が多かった。そこでEELSスペクトルの微細構造マップが物理的に何を反映しているのかについて、理論的な研究を過去に発表されたSTEM-EELSマップの理論モデルを発展させる形で研究を行った。特に本研究では問題を単純化させるため、球対称なs軌道から異方的なp軌道への遷移を反映したK殻励起についての研究を行った。その結果、微細構造マップで観察される原子像コントラストの異方性は、終状態の軌道そのものが見えているわけではなく、終状態の軌道の異方性を反映した双極子モーメントが電子顕微鏡によって直接可視化されいることが分かり、そこから間接的に軌道の異方性が議論でき得ることが明らかとなった。またさらに、電子線の入射方向(もしくは結晶の投影方向)が任意に変化した場合の解釈について、理論を発展させるべく研究を行ったが、未だ結論には至っていない。一方で、2p軌道から3d,4sへの遷移に対応するL殻励起の場合についても理論的解釈の関する研究を行った。
2: おおむね順調に進展している
これまで研究者の実験グループでは実験手法は凡そ確立しつつあったものの、理論的な解釈が不十分であったが、今年度の研究により実験像の定性的な解釈を理論的に説明できるモデルに関する研究が進んだことで、実際に得られる像が物理的に何を反映しているのかについて明らかにすることができたことは大きいため。
本研究では実験的実証と理論的な解釈の両方を進めることで、どういう系であれば電子軌道に関する情報を高い空間分解能で得ることが可能で、また像をどのように解釈していくべきなのかに関する指針が得られると考えている。そこで、K殻励起とL殻励起について、より正確な理論的解釈を深め、特に方位に寄らずにどのように解釈されるべきなのかについての理論的モデルを確立させ、それを実証するための実験を研究計画に従って行っていく。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件)
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