研究課題/領域番号 |
22H01959
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
吉川 純 国立研究開発法人物質・材料研究機構, マテリアル基盤研究センター, 主幹研究員 (20435754)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | フォノン / EELS |
研究実績の概要 |
本研究では、熱を運ぶ結晶格子の振動(フォノン)の視点に立ち、どの振動モードでどの波数ベクトル(単位長さあたりの振動の数と振動が伝わる方向)とエネルギーを持つフォノンが、異なる半導体材料同士の界面(ヘテロ界面)においてどれだけの割合で透過、散乱されるか、を実計測で明らかにすることを目指す。そのため、1ナノメートル(10億分の1メートル)の位置分解能で波数分解できる電子分光イメージングによるフォノン計測技術を開発し、温度勾配のなかに置かれたヘテロ界面でのフォノン輸送解析法の確立を目指している。 2022年度は、散乱ベクトル分解・電子エネルギー損失分光法(EELS)を基軸として、 本研究の基盤技術となる、音響フォノンを用いた室温~300℃域の高精度温度計測技術と、ナノメートルスケール温度分布計測技術、をおおむね確立することができた。これらの成果は音響フォノンを活用した新しい技術であり、世界に先駆けて成功することができた。1,2ナノメートルの高位置分解能で温度が計測できる点で、局所領域の熱輸送を計測・解析する際に重要な技術である。一方で、本研究の途中で、同位体濃縮試料のフォノン計測していたところ、電子線とフォノンのカップリング状態を検出している可能性が明らかになった。研究遂行上、より精密な計測と解析が不可欠と考え、当初計画を変更し、この物理現象について解析・考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は下記の(1)(2)を確立することができた。当初の計画に沿って、おおむね順調に進んでいる。 (1)音響フォノンを用いた室温~300℃域の高精度温度計測技術: ダイヤモンド結晶中の音響フォノンを用いて、フォノンの生成と消失の確率比がボルツマン係数に比例すること(詳細釣り合いの原理)に基づき、室温~300℃の比較的低温域で高精度に温度を測定できることを実証できた。音響フォノンを用いることで、位置分解能が低下する光学フォノンと違って、電子プローブ直径1-2nmの位置分解能で温度測定できることも示した。これらの計測を最適化するにあたり、独自に作製したアパーチャーを活用した。 (2)ナノメートルスケール温度分布計測技術の開発: ナノメートルスケールで温度分布を生じる計測用試料を作製するにあたり、自己組織成長した半導体ナノワイヤ、バルク結晶を微細加工した細線、半導体デバイス構造の断面薄膜試料、を用いた3方法を並行して取り組んだ。このうちバルク結晶を微細加工した細線で研究を進めることができた。具体的には、ダイヤモンド結晶を微細加工して作製したナノワイヤをMEMSチップ上に固定して、ナノワイヤ両端に電圧をかけて通電することで自己ジュール発熱させた状態で、音響フォノンをEELS計測した。各電子プローブ位置(各ピクセル)の信号/ノイズ比が小さかったため、音響フォノンの生成と消失の確率比を評価するためにピクセル数を積算して位置分解能を落として、ナノワイヤ軸に沿った温度勾配を評価した。1-2nmの位置分解能で温度分布を得るには、各電子プローブ位置の信号/ノイズ比を大きくする必要がある。また、ナノワイヤの伝導電子の経路とフォノンの経路を判定し、ジュール加熱機構を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
次のステージとして、ヘテロ界面フォノン物性とその評価技術の確立を目指すと同時に、半導体デバイス構造の断面薄膜試料の作製も検討する。また、一部当初予定を変更して、電子線とフォノンのカップリング状態の再計測と解析も実施する。具体的には以下の点に取り組む。
(1)ヘテロ界面フォノン解析のための取り組み:熱の流れあるヘテロ界面近傍でフォノン計測をする技術を開発するため、(1)と同様に、集束イオンビームを用いてダイヤモンド結晶を微細加工したのと同様に、ヘテロ接合結晶体を微細加工して、1次元状に接合したナノワイヤを作製する。 (2)半導体デバイス構造の断面薄膜試料の作製:実デバイスでの発熱現象の計測を行うため、半導体デバイス断面試料を作製して、デバイス動作中のフォノン計測を目指す。そのために、エネルギー分解能の観点から、フォノン計測が可能な材料系を絞り、フォノン計測が可能か否かの確認から始める。 (3)電子線とフォノンの相互作用に関する再計測と考察:厚さとサイズの異なる、同位体濃縮試料に対して、再度エネルギー分解能を高めてフォノン計測を実施する。電子プローブ位置によるフォノンのスペクトル形状の変化を捉え、理論的な考察を進める。
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