研究課題/領域番号 |
22H01962
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山口 尚秀 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, 主幹研究員 (70399385)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ダイヤモンド / 電界効果トランジスタ / 移動度 / 六方晶窒化ホウ素 |
研究実績の概要 |
ダイヤモンドの固有移動度は、電子、ホールとも室温で2000 cm2V-1s-1以上と非常に高く、素子の低損失化や高速化に適している。しかし、ダイヤモンド電界効果トランジスタ(FET)を作製すると、チャネル移動度は多くの場合1~2桁低くなる。主に表面トランスファードーピングという手法が使われてきたが、この手法はチャネルの直上にキャリアの散乱源(イオン化したアクセプタ)を導入することにもなっているためである。本研究では、表面トランスファードーピングに頼らずにアクセプタ密度を低減した高品質なダイヤモンド/絶縁体ヘテロ界面の形成を行うことで、ダイヤモンドFETの高移動度化や新規量子現象の発現を行う。これまでに、われわれが実績をもつ六方晶窒化ホウ素(h-BN)をゲート絶縁体とするダイヤモンドFETの作製手法の改良を進めてきた。特に、斜め蒸着法による自己整合したゲートおよびソース・ドレイン電極作製、ピックアップ法を使ったh-BNの転写、上部に平坦面を形成したメサ構造上へのFETの作製などの要素技術の開発を行ってきた。このような技術を使ってダイヤモンドFETを作製し、従来に比べてより低温までのチャネル移動度の上昇を観測した。これは、イオン化不純物および表面ラフネス散乱が抑えられた高品質な界面を形成できたことを示している。また、前年度得た結果をもとに、h-BN/水素終端ダイヤモンドヘテロ構造を使った窒素・空孔(NV)センターの量子素子としての特性を向上させる研究についての論文を執筆し、ACS Applied Materials & Interfaces誌に掲載された。さらに、表面近くに形成したNVセンターを量子センサとして利用し、水素終端ダイヤモンド表面下のバンドベンディングを決める要因について新たな知見を得ることができた。(arXiv:2310.17289)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案した内容に従って研究を推進し、従来に比べて高い特性を示す水素終端ダイヤモンドFETの実現に成功した。とくに、これまでに比べてより低温までチャネル移動度が上昇することを確認し、イオン化不純物および表面ラフネス散乱が低減したより高品質な界面の形成が示された。また、水素終端ダイヤモンド/h-BNヘテロ構造に窒素・空孔センター(NVセンター)を組み合わせた新たな構造を提案し、NVセンターの量子素子としての特性を向上できることを報告した。これは、ダイヤモンド/h-BNヘテロ構造の量子素子応用の可能性を拓く成果である。さらに、表面近くに形成したNVセンターを量子センサとして利用することで、水素終端ダイヤモンドのバンドベンディングを決める要因について新たな知見を得ることができた。この知見は表面アクセプタ密度を低減させた場合の水素終端ダイヤモンドFETの設計に役立つものである。以上の状況から、おおむね研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに引き続き、水素終端ダイヤモンド/h-BNヘテロ界面の高品質化を進める。単結晶ダイヤモンドの表面の水素終端化を行ったのちに、大気に晒さずにh-BN単結晶をグローブボックス中および真空中で転写する。これによって大気由来の表面アクセプタ密度を低減させるが、それに伴いソース・ドレインのコンタクトが取りにくくなるという問題を、h-BNのエッジまでゲート電極を延長し、ソース・ドレイン電極の近傍のみ表面アクセプタを配置する構造を使うことで回避する。また、表面のステップに平行に電流が流れるようにチャネルの方向を設計し、表面ラフネス散乱の影響を低減する。さらに、われわれが提案してきた表面トランスファードーピングを使わないことで水素終端ダイヤモンドFETの特性を向上させるというアイデアをh-BN以外のゲート絶縁体材料に対しても適用する研究を進める。
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