研究課題/領域番号 |
22H01975
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
渡邊 賢司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主席研究員 (20343840)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 六方晶窒化ホウ素 / 結晶成長 / 2次元原子層材料 / 非線形分光 / プラズモン |
研究実績の概要 |
2022年度においては、従来の気相成長システムにおいて最適化された結晶成長条件によりホモエピタキシャル成長した六方晶窒化ホウ素薄膜試料の結晶性を光電子分光法(XPS)や発光分光法などを用い検証し、炭素および酸素不純物の取り込みが著しいことを見出した。これらの不純物の混入経路は成長中の雰囲気に由来することが成長槽雰囲気中のガス分析から予想され、高純度気相成長技術の改良への指針を得ている。さらに、この指針を基に清浄な成長雰囲気環境を実現するための従来の気相成長システムへの改良を実施している。 これら炭素原子や酸素原子は六方晶窒化ホウ素の構成元素である窒素およびホウ素と周期律表の同じ周期に属し、気相成長法や高温高圧下における温度差法などの成長方法にかかわらず、単結晶成長において非常に取り込まれやすい不純物元素であることが知られているが、一方において六方晶窒化ホウ素における高効率な発光中心を形成することでも知られており、将来の量子オプトエレクトロニクス応用の基盤材料として非常に注目を受け期待されている。特に炭素不純物を含む六方晶窒化ホウ素(hーBN:C)原子層薄膜は、光通信に用いられる近赤外領域近傍の単一光子光源デバイスへの応用の期待から近年多くの論文が報告されはじめているところである。このような光量子応用に際しては、発光中心の高速応答性および発光の高効率化が求められることに鑑み、炭素不純物による発光中心の高効率化のためのプラズモン共鳴発光増強および高速応答化を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非線形分光学による評価のための高品位なバルク単結晶の育成のために、高温高圧法により成長した六方晶窒化ホウ素単結晶を用いたホモエピタキシャル成長の高純度化は極めて重要な課題である。従来成長試料の発光分光法などの光学的手法やX線光電子分光法(XPS)による結晶性の評価の結果によると、炭素および酸素不純物がppmレベル以上で含まれていることがわかった。炭素および酸素は非常に取り込まれやすい不純物元素として知られている。そこで2022年度は、この不純物濃度を下げるために従来の結晶成長槽の交換と、成長雰囲気を超高真空に保つためのポンプ系のオイルレス化などのリニューアルをおこなった。これらの装置の改造により、成長槽内の炭素・酸素関連の原子・分子のガス分圧は、従来装置と比較して約1桁程度の改善が実現しており、新たな成長システムにおいて成長条件の最適化を進めている。 また、一方で新しい量子発光デバイスへの応用を見据えた展開として、炭素をドープした六方晶窒化ホウ素(hーBN:C)層の発光減衰過程の研究もしている。六方晶窒化ホウ素中の炭素は、室温における非常に安定な発光中心を形成する。これを三角形状の銀のナノパーティクル上に配置することにより、ナノパーティクルのプラズモンによる近接効果により発光減衰過程が350psから46psに加速されることを見出している。この発光の超高速動作は、単一光子エミッタや量子デバイスなどへの応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度導入の雰囲気制御により、炭素・酸素およびその化合物濃度はガス分圧で従来にくらべて約1桁以上の低減に成功しており、高純度結晶成長が期待できる。2023年度はさらにレーザ加熱と補助抵抗加熱の比率をパラメータとし、より低い不純物濃度が得られる成長条件を模索する。また、一方でホウ素源のジボラン(B2H6)は特殊材料ガスに分類され、毒性および反応性が非常に高く極めて取扱いに注意が必要なガスであり、将来的な応用を考えるとより安全なソースを検討する必要がある。そこでジボランの代替として、いくつかのホウ素化合物による成長を試みる。材料ガスと基板材料との反応性も重要な検討要素であるので、これまでに他の原料ソースで報告例がある銅や鉄などの基板材料について基板表面上の反応を促す効果の有無などを検討し、より低温で安全かつ高品位な結晶成長ができる条件を探索する。得られた成長薄膜の結晶性についてラマン散乱分光や2光子励起発光システムなどを用いて多角的に評価を進める。
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