研究実績の概要 |
本研究の目的は、アト秒の時間精度で相対光位相を制御したフェムト秒パルス列を用いることで、固体物質内の電子過程を経由した量子結合系の量子コヒーレンス保持時間や量子もつれを評価、制御することである。 これまでに、n型GaAs単結晶を試料として、アト秒制度で相対位相を制御したフェムト秒パルス列を用いた過渡反射率計測で、励起パルスの相対偏光角度を45度に設定し、電子コヒーレンスの保持時間を定量的に求めることに成功した。この成果をPhysical Review B誌に投稿し、査読に応じた解析と考察を行い出版した。この研究では、電子コヒーレンス保持時間の温度依存性を計測し、10K, 90K, 290Kでそれぞれ27.8 fs, 23.0 fs, 12.9 fsと求めることができた。この温度依存性を、光誘起電子が群速度で周囲の電子と散乱するモデルで説明することができた。また理論計算や先行研究との比較から、フォノンや不純物との散乱による運動量緩和過程よりも電子電子散乱が支配的であることを明らかにした。 フォノンと電子の複合系におけるデコヒーレンス過程を、開放量子系の考えに基づきリンドブラッド型量子マスター方程式を用いて数値計算できるようにした。このモデル計算では、初期状態では電子状態とフォノン状態は積状態にあるが、光との双極子相互作用と電子フォノン相互作用を通じて、電子状態とフォノン状態のエンタングルメントが生じ、電子基底状態と電子励起状態でコヒーレントフォノン振動の様子が異なることが示された。このモデルを用いて、光共鳴条件でのコヒーレントフォノン生成における光強度依存性を計算し、電子励起状態に比べてラマン過程によって電子基底状態で生成するコヒーレントフォノン強度が低い強度で飽和に近づくことを見出した。この成果はSolid State Communicationsに出版した。
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