研究課題/領域番号 |
22H02005
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木野村 淳 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (90225011)
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研究分担者 |
徐 ぎゅう 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (90273531)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 陽電子消滅分光 / 格子欠陥 / 動的挙動 / ポンププローブ |
研究実績の概要 |
ビームラインを設置する複合研電子加速器施設の測定室は遮蔽が十分ではないため、電子線パルスに同期して空間線量が増加する。シンチレーション検出器により放射線レベルの時間変化を計測した結果、放射線レベルがピークからバックグラウンドまで低下するまで約5マイクロ秒を要した。一方、ビームラインの長さを10m、陽電子のエネルギーを10eVとすると、陽電子ビームが発生からビームライン終端に至るまでの時間は5.3マイクロ秒であった。そのままビームを導入すると、十分空間線量が低減しないうちに陽電子ビームが到達し、測定に問題が生じる。このことから、ビームラインにストレージ装置を設置して、電子線のパルスから遅延させてビームを導くことが必須である。陽電子の速度と空間分布を考慮して、ストレージ装置の長さは4mで十分である。これに加えて、ターゲットを含む直線部約1.3m、曲率約0.5mの90度ベンド配管4箇所、試料チャンバから構成されるビームラインとした。また真空ポンプはイオンポンプ3台、ターボ分子ポンプ1台を配置した。この基本設計に基づく構成部品の製作、入手を行った。 ビームライン各部の構造を最適するためにSIMIONコードを用いて、最適なモデレータ構造の探索を行うとともに、リニアストレージの磁場、電場分布が蓄積効率に与える影響に関する調査を行った。リニアストレージに関する計算においては、ソレノイドコイルを持つ直線状真空ダクトを接続するフランジ部分における補助コイルの1度以下の傾きがビーム伝搬に大きな影響を与えることが示された。さらにモデレータ材料を最適化するため、モデレータ試験装置を製作した。モデレータ試験装置についてはまだ性能不足のための再放出効率の測定には至っていないが、ベンド配管中の陽電子の伝搬に関する先行研究との比較検討を行うための有用な知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
技術的には本研究で開発する装置の要素技術については、代表者が過去に経験したことがある技術であるが、実際に装置を設置する加速器施設の状況に合わせて、それらの要素技術を適用していく必要があり、その点で実施上の困難があったが、それらの問題は基本設計上では解決できたと考えている。 また、本研究において重要な施設管理上の問題及び、ビームライン部品の調達に関する二つの問題が解決されたことから本研究は順調に進捗していると考えている。施設管理上の問題については、ビームラインの設置に関する施設管理者、放射線管理者、研究所の実験設備全体の管理者との調整を行い、基本設計に基づく装置の設置に関する調整を行うことができた。もちろん施設管理上の問題に関しては、予算申請時にも調整を行っているが、実際に研究が開始された後に決まる情報を元に再度調整を行う必要があった。またビームライン部品の調達に関しては、真空部品の納期遅延の問題、陽電子ビームライン用のソレノイドコイル付きの真空配管に対応できる製造業者の減少の問題、ビームライン構成部品の譲渡先との調整に関する問題などがあり、これらも予算申請時に予め調整を行っているが、実施が決まってからでないと具体化できないことが多く、様々な調整作業を要した。その結果として、これらの問題についても概ね解決できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
基本設計に基づきビームラインを完成して、低速陽電子ビームの発生、伝搬実験、リニアストレージの性能確認を行う。その後に、パルス化装置を作動させて試料に低速陽電子ビームを照射し、陽電子寿命測定が可能なことを確認する。その際に、電子加速器運転時に生じる空間線量の影響が低減できていることを確認する。一方、低速陽電子ビームを導く電子線加速施設の測定室近傍には、中性子の飛行時間測定を行う別の実験装置が設置されており、本研究のビームライン設置によりバックグラウンドの中性子線量の増加による同装置への影響を避けるために、ビームライン周辺の遮蔽を十分に行うことが重要である。その上で、イオン源及び光源など欠陥の生成または励起装置を取り付けて、ポンププローブ型の測定を行うことを可能にする。
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