研究課題
本研究では、レーザー中性子源の実用化のために、より高効率な中性子発生機構の追求と生成した中性子による分析技術の開発を行う。そのため、代表者等が発見したスケーリング則を適用しつつ冷却装置による固体重水素薄膜を用いることでレーザーエネルギーから重水素加速エネルギーへの変換効率を上げる。また、短パルス性を大きく損なわない減速体系を構築する。2m 以下の距離に検出器を設置し中性子飛行時間計測法でエネルギーを計測しつつ検出域の前にサンプルを配置することで、シングルショット中性子共鳴吸収分析法の開発を行う。クライオ冷却による固体重水素薄膜生成装置の開発を完了し、セルフサポートの重水素薄膜(厚さ100μm)を生成して、大型レーザー装置LFEXからの高強度レーザーパルス(10^19 Wcm^-2, 1.5 ps)を照射することで、重陽子加速試験を実施した。その結果、重陽子のエネルギー分布に特徴的なピーク構造が見出された。従来の加速機構(TNSA機構)とは異なる機構が発現していることが示唆される結果である。シミュレーションを含めた理論的解析を進めている。また、シングルショット中性子分析の実証研究においては、中性子共鳴吸収分析を実施し、サンプルの昇温に伴って共鳴吸収ピークの半値幅がドップラーシフトによって増大する結果を、シングルショット計測することに成功した。従来の加速器中性子を用いた研究例では、10m級のビームラインで時間積算計測が行われていたが、本研究では、1.8mの距離で、レーザー1ショットで計測する点が特徴である。遮蔽(ニッケル管等)を配置することで測定ノイズ等に起因するばらつきを低減し、実験で得られた共鳴吸収ピークからドップラーシフトを導出することに成功した。その結果、ドップラーシフトが温度の平方根に依存することが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
シングルショット共鳴吸収分析における温度依存性の成果を、Nature Comunications誌に投稿し、査読が最終段階にある。また、中性子ビームラインの遮蔽設計に関する成果[Lan et al., Quantum Beam Sci. 8(1) 9 (2024)]および、クライオ冷却による固体重水素薄膜生成装置の開発に関する成果[Wei et al., Jpn. J Appl. Phys. 63(4) 046002 (2024)]が投稿論文として出版された。また、上記の成果を2件の国際会議において招待講演として報告した他、国内学会(原子力学会、レーザー学会、日本物理学会)において報告した。加えて、レーザー駆動中性子源に関する成果に対して、第45回応用物理学会論文賞を授与された。
シングルショット共鳴吸収分析に関しては、遮蔽ビームラインの改善をさらに進める。また、新たに、位置分解機能を有する中性子分析器を米国、英国の研究者を含む国際チームで開発し、レーザー駆動中性子源によるシングルショット計測実験を実施する計画である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
Japanese Journal of Applied Physics
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The European Physical Journal A
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