研究課題/領域番号 |
22H02012
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
矢板 毅 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主席 (40370481)
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研究分担者 |
小林 徹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (40552302)
下条 晃司郎 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (50414587)
横山 啓一 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究嘱託 (60354990)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アメリシウム / 多光子励起 / XAFS / その場観察システム / 酸化還元反応 |
研究実績の概要 |
超プルトニウム元素(主にAm等)やランタノイド等、その化学的挙動が互いに類似したf電子系元素が多種混在している溶液中に存在する特定元素に対し、短パルスレーザー照射することにより生ずる多光子励起現象の解明に資する基礎研究を行う。また、励起後引き続き起こる酸化還元反応のメカニズムを解明するため、放射光を用いる高速XAFSシステムを立ち上げ、その場観察による多光子励起現象および酸化還元反応のダイナミクスに関する研究も行う。これらの知見を基に、多光子励起による量子制御と化学反応を組み合わせた、先端的分離システム概念を構築することを本研究の究極の目的とする。本研究では、特に原子力発電における高レベル廃液中で問題となるAm(III)やEu(III)などをターゲット元素とする。本年度は、昨年に引き続きAm(III)に関する照射実験を実施し、照射条件などの調整により効率の変化があるかを確認する。また、多光子励起反応およびこれに引き続き起こる酸化還元反応メカニズムを解明するために、新たにマイクロ秒オーダーでの時間分解能での化学反応を追跡するための放射光その場観察を目的としたUltraFastXAFSシステム立ち上げのためのGatingXAFS実験による予備実験を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度のフィジビリティースタディで実証された、Am(III)からAm(V)の513nm周辺のエネルギーを短パルスレーザーにより照射する多光子励起照射実験を引き続き実施し、最適な条件の探査を行った。マクロ量のAmがV価に酸化する原理は、f-f遷移による禁制遷移をゲートとし、許容遷移であるf-d遷移を連続的に生じさせることで引き起こされるが、酸化還元反応は多光子励起後に硝酸イオンとの相互作用によってAmがアメリシルイオンとなり、Am(V)として安定化する。この酸化反応では、昨年度の研究で硝酸イオンと1:1の錯体を形成する際に最も効率が良いとの結果が得られている。この原子価の変化について分光的に追跡するため、レーザー照射をトリガーとする化学反応と放射光測定を同期させたポンププローブXAFS、いわゆる、UltraFastXAFS法の測定システムの組み上げを行った。この際、SPring-8の蓄積リングにおける電子の周回と同期してレーザーを照射、これ基点(t=0)として等時間間隔でそのX線吸収量の時間変化記録する。この際のX線エネルギーは固定とした。この実験を、Eu(III)の吸収端前後のエネルギー約100点程度で実施し、最終的にエネルギー依存のXAFSスペクトルに編集した。その場観察システムとして本年度は、0.1msでの時間分解能でのUltraFastXAFSスペクトルとして得られる事を確認した。これにより、最終年度に多光子励起および酸化還元反応のその場観察実験が計画通り実施できる見込みとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで513nmの短パルスレーザー照射によって多光子励起に伴う酸化還元反応によりAm(III)がAm(V)に酸化することが明らかとなるとともに、1ms以下の時間分解能で、放射光その場観察することが可能となった。これにより原理的に多光子励起および酸化還元反応に関するメカニズム解明が実施できる。しかしながら、Am(III)からAm(V)の酸化反応はAm(V)が比較的安定性が高いため、結果として極めて短い時間時間ではAm(V)が蓄積するような積算型の反応であるため、反応過程にある化学種の存在量が少ないため、反応中間体の状態が十分得られない可能性がある。その対策としてストップトフローシステムなどの利用なども検討する必要があると考えている。また積算型であっても、十分なS/Nでスペクトルが得られれば、Am(V)のスペクトルを差し引くという差分処理によっても、反応中間体の情報が得られる可能性がある。この点に十分留意して、実験を実施する予定である。
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