研究実績の概要 |
酸素発生触媒として高い活性が報告されている2種の酸化物,(La,Sr)CoO3とRuO2の薄膜に対する物性評価と放射光による実験を行った。RuO2に関しては,従来報告の少ない(100)表面が出た薄膜に対する計測を試みた。しかし,この試料は表面X線回折を行うには表面の平滑度が不足しており,実質的に検出可能な信号強度が得られなかった。一方(La,Sr)CoO3薄膜については,(1)物性評価の結果として,電気化学的な活性を持つ試料の厚さの条件を明らかにし,(2)表面X線回折実験の結果として,固液界面で表面X線回折信号が得られる実験条件を見出した。一方で,想定を超えて厚い試料でないと電気化学的な活性が得られないこともわかったため,過去にない解析法が要求されることもわかった。そこで,まずは(La,Sr)CoO3の厚膜に対する平均構造解析が必要であり,それをもとに膜の表面構造を解析で求める方針に転換した。 厚い膜の構造解析は,高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設(PF)の四軸回折計を用いた測定で実施できることを,Ni酸化物薄膜に対して今年度確認した。ただしこの手法では想定していない構造的な特徴を見落とす可能性があるため,PF BL-8Bに新たに整備された大型二次元検出器を備えた回折計で薄膜の計測ができるよう,ソフトウェア的な対応を進めている。現在,計測して得た強度分布を逆空間で可視化するところまでできており,強度の計測を従来法と同様にできるかどうか,Ni酸化物の標準試料を測定することで確認を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは電気化学的に活性のある,厚めの(La,Sr)CoO3膜の平均構造を解析する。それと並行して,(La,Sr)CoO3超薄膜の表面/界面構造解析を行い,厚膜の表面構造解析の初期モデルを作る。 厚膜の平均構造の測定には高エネルギー加速器研究機構の放射光施設を主に用い,膜のブラッグ反射強度を収集して構造解析を行う。ペロブスカイト酸化物膜の構造解析はあまり一般的に行われているわけではなく,面内・面直方向の格子定数の測定程度しか通常は行われないが,ここではより詳細な,CoO6八面体の傾きや,Aサイトイオンの変位なども解析に取り入れる。これを初期値として表面構造の解析を行うことになるため,膜のバルク構造解析は重要なステップである。 厚膜については固液界面での電位を制御した状況で表面回折信号を計測できている。ある散乱ベクトルQで信号を見ている状況で回折計を固定したまま,電位を変化させることで表面構造の時間発展を計測する。どのQでこの測定を行うかが問題であり,その条件を決めるため,いくつかの典型的な電位での表面回折信号測定を,広いQの範囲で計測する必要がある。 並行してNi酸化物に水素を吸蔵させた際のX線回折測定も行い,こちらの時分割測定に向けた予備測定を進める。水素を吸蔵させることで膜のブラッグ反射の強度が大幅に広がることが既に報告されており,散漫散乱の解析の要領で情報を取り出す必要がある。これは広い逆空間に対する定量的な計測と,適切なモデリングが要求されるが,まずは散乱強度分布の計測を目指す。
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