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2023 年度 実績報告書

超高速1分子スペクトル分光法で探る生体光反応の機能的ロバスト性

研究課題

研究課題/領域番号 22H02030
配分区分補助金
研究機関東京工業大学

研究代表者

近藤 徹  東京工業大学, 生命理工学院, 講師 (30452204)

研究分担者 浅井 智広  立命館大学, 生命科学部, 講師 (70706564)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード1分子分光 / 顕微分光 / 過渡吸収分光 / 光合成光捕集系 / 機能的ロバスト性
研究実績の概要

本研究課題では、1分子感度の過渡吸収スペクトル顕微鏡を開発し、緑色硫黄細菌の光合成光捕集に関わるエネルギー移動過程を揺らぎ成分も含めて解析する。昨年度は、高感度吸収顕微鏡の開発およびフェムト秒過渡吸収顕微測定系の構築を行い、緑色硫黄細菌の光捕集アンテナであるクロロソームの1粒子解析に成功した。そこで2年度目となる当該年度ではまず過渡吸収顕微鏡の改良から進めた。遅延光学系の時間走査を高速化し、連続的に過渡吸収信号を得られるようにした。過渡吸収信号を1つ1つフィッティング解析することで、エネルギー移動の時定数の時間的な揺らぎを解析できるようになった。さらに、過渡吸収測定のprobe波長を変えることで、複数の波長で過渡吸収信号を得られるように改良し、時定数成分の同定を行った。これらの装置改良に加え、測定試料も再検討した。緑色硫黄細菌に変異を加え、クロロソームの色素会合体構造を制御した変異体試料を精製した。これにより、1粒子解析で新たに観測された時定数成分をクロロソームの微細構造と対応づけて同定できるようになった。今後は、変異体試料で得られた結果の解析を進め、これまでのアンサンブル測定では難しかったクロロソームの微細構造の不均一性の生理学的な意義について明らかにする。また、緑色硫黄細菌の光反応系において、クロロソームと結合して機能する光捕集アンテナタンパク質FMOと反応中心タンパク質RCの超複合体試料の精製も進めており、これらの1粒子解析も進めて行く予定である。これら各部位ごとの1粒子解析手法が確立できたら、最終的にはクロロソーム・FMO・RCの超複合体におけるエネルギー移動過程を解析し、それらと揺らぎがどのように相関しているのかを明らかにする。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2年目である当該年度は、高感度吸収顕微鏡の改良および緑色硫黄細菌の光合成光反応系の1粒子解析を計画していた。当初の計画通り、緑色硫黄細菌がもつ光捕集アンテナであるクロロソームの1粒子過渡吸収解析に成功した。さらに、装置改良を行うことで過渡吸収信号の連続測定ができるようになり、フェムト秒時間スケールで生じる超高速光エネルギー移動の時定数の時間的な揺らぎの解析に成功した。吸収検出をベースとした分光解析で、時定数の揺らぎまで解析できた例はこれまでほぼ皆無に等しい。さらに、クロロソームの1粒子解析が予想以上に上手くいったため、微細構造を制御した変異体試料の測定まで行うことができた。まだ解析は不十分だが、野生株と比較して大きな違いが見えており、1粒子解析の強みを存分に活かした光生物研究へと発展できている。このように、本研究計画は当初の計画以上に進展していると考えている。

今後の研究の推進方策

当該年度で高感度吸収顕微測定系を構築することができ、緑色硫黄細菌の光合成光反応系の1粒子解析手法も確立できた。これにより、光捕集アンテナ・クロロソームの1粒子解析が可能となり、野生株と変異体から精製したクロロソームで超高速光エネルギー移動の不均一性の比較ができるようになった。そこで、今後の方針の1つ目として、クロロソームの1粒子解析をさらに進めて行く。次年度は様々な条件で測定を行うと同時に解析を進め、結果を論文としてまとめる。これまでのアンサンブル測定では難しかったクロロソームの微細構造の不均一性の生理学的な意義について明らかにする。今後の方針の2つ目は、吸収スペクトルの過渡変化を測定できる分光光学系を導入することである。広範囲のスペクトル情報が得られるように装置改良することで、より複雑な多段階のエネルギー移動過程まで解析できるようになる。これを用い、緑色硫黄細菌の光反応系においてクロロソームと結合して機能する、光捕集アンテナタンパク質FMOと反応中心タンパク質RCの超複合体試料を精製し、1粒子レベルで解析を行う。さらに、クロロソーム・FMO・RCの超複合体におけるエネルギー移動過程の解析まで発展させる。揺らぎの影響も含め、光合成系の光エネルギー移動過程がどのように高安定かつ高効率化しているのかを明らかにする。

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 図書 (2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Experimental and Theoretical Mutation of Exciton States on the Smallest Type-I Photosynthetic Reaction Center Complex of a Green Sulfur Bacterium <i>Chlorobaclum tepidum</i>2024

    • 著者名/発表者名
      Kimura Akihiro、Kitoh-Nishioka Hirotaka、Kondo Toru、Oh-oka Hirozo、Itoh Shigeru、Azai Chihiro
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry B

      巻: 128 ページ: 731~743

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.3c07424

    • 査読あり
  • [学会発表] 緑色硫黄細菌Chlorobaculum tepidumにおける鉄硫黄クラスターFXを欠いた光合成反応中心複合体の作製2024

    • 著者名/発表者名
      稲垣 知実,小島 由江,寺内 一姫,浅井 智広
    • 学会等名
      第65回日本植物生理学会年会 日本植物生理学会
  • [学会発表] 構造揺らぎが光合成電荷分離反応にもたらす影響の実測に向けた高感度吸収顕微鏡の開発2023

    • 著者名/発表者名
      新井峻, 近藤徹
    • 学会等名
      第63回生物物理若手の会夏の学校
  • [学会発表] フェムト秒~ミリ秒時間スケールで見る光合成:1分子分光法で探る光捕集機構2023

    • 著者名/発表者名
      近藤徹
    • 学会等名
      第13回日本光合成学会年会
    • 招待講演
  • [学会発表] Flexible photosynthetic light harvesting studied by single-molecule spectroscopy2023

    • 著者名/発表者名
      近藤徹
    • 学会等名
      18th International Workshop on Supramolecular Nanoscience of Chemically Programmed Pigments (SNCPP23)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 光合成光捕集アンテナクロロソームにおけるエネルギー移動過程の単一粒子解析2023

    • 著者名/発表者名
      新井峻, 稲垣知実, 浅井智広, 近藤徹
    • 学会等名
      第78回日本物理学会年次大会
  • [学会発表] リング型色素会合体の一粒子分光解析から見る構造と光物性の相関関係2023

    • 著者名/発表者名
      増田真之介, 新井峻, 石井辰磨, 松原翔吾, 近藤徹
    • 学会等名
      第78回日本物理学会年次大会
  • [学会発表] Photophysical properties of ring-shaped self-aggregates of chlorophyll molecule at one particle level2023

    • 著者名/発表者名
      Shinnosuke Masuda, Shun Arai, Tatsuma Ishii, Shogo Matsubara, Toru Kondo
    • 学会等名
      第61回 生物物理学会年会
  • [学会発表] Relationship between light-harvesting function and microscopic structural heterogeneity in the photosynthetic antenna chlorosome2023

    • 著者名/発表者名
      Shun Arai, Tomomi Inagaki, Jiro Harada, Chihiro Azai, Toru Kondo
    • 学会等名
      第61回 生物物理学会年会
  • [学会発表] Optical properties of one-dimensional chlorophyll self-aggregates at the single-particle level2023

    • 著者名/発表者名
      Yuki Kamiie, Shogo MatsubaraI, Toru Kondo
    • 学会等名
      第61回 生物物理学会年会
  • [学会発表] Triplet-excited state of carotenoid in the photosynthetic reaction center complex of green sulfur bacteria2023

    • 著者名/発表者名
      Tomomi Inagaki, Masatoshi Kida, Daisuke Kosumi, Chihiro Azai
    • 学会等名
      第61回 生物物理学会年会
  • [学会発表] 緑色硫黄細菌および遠赤色光適応型PSIの光補修機構と励起子モデル2023

    • 著者名/発表者名
      木村 明洋,中村 有花,下岡 渉,鬼頭 宏任,浅井 智広,近藤 徹,大岡 宏造,伊藤 繁
    • 学会等名
      第13回日本光合成学会年会
  • [学会発表] 緑色硫黄細菌の光合成反応中心内部で起こる高速の電荷再結合反応2023

    • 著者名/発表者名
      稲垣 知実,寺内 一姫,浅井 智広
    • 学会等名
      第13回日本光合成学会年会
  • [図書] 量子生命科学ハンドブック2024

    • 著者名/発表者名
      瀬藤光利, 荒牧修平 (著, 監修)
    • 総ページ数
      372
    • 出版者
      エヌ・ティー・エス
    • ISBN
      978-4-86043-882-1
  • [図書] Anoxygenic Phototrophic Bacteria2024

    • 著者名/発表者名
      Shimada, Keizo (EDT)/Takaichi, Shinichi (EDT)
    • 総ページ数
      302
    • 出版者
      Academic Press
    • ISBN
      9780443159824
  • [備考] 生物物理学会 生物物理のテーマ紹介 「単一分子分光」

    • URL

      https://www.biophys.jp/highschool/D-49.html

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公開日: 2024-12-25  

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