研究実績の概要 |
従来の波数軸に時間軸と空間軸を加え,顕微機能を備えた多次元赤外円二色性分光法(多次元VCD法と命名)を開発した。高輝度の赤外光を発する量子カスケードレーザーを用いて空間分解能100 μmを達成した。顕微手法を用いた生体試料の例として,昆虫翅に適用した。愛媛県の生物多様性センターから御提供いただいた絶滅危惧種のトンボ(ハッチョウトンボ,ナニワトンボ)やモンスズメバチなどへの応用を広げてきた。この結果,各種類の翅において,タンパク質分布が異なっていることを見出した.特にトンボの翅においては赤外の吸収があるにも関わらず,VCDシグナルを得ることができなかった.これはタンパク質の凝集割合が小さい,あるいはドメインが空間分解能以下であることを意味していると現状では考察している. アオドウガネの雌では昆虫翅の場合,大きさ100 μmの各部位(翅膜,翅脈等)ごとに種々の高次構造(コイル,β-シート,α-ヘリックス等)のタンパク質ドメインが二次元的に分布していることを見出した。このように翅の生体試料中のミクロキラルドメインの顕微測定に成功し,平均の高次キラル構造だけでなく,局所的な超分子キラリティの分布を捉えることができた。アオドウガネの翅のタンパク質構造は雌雄の差がないことを明らかとした。 ヒトカルシトニンペプチドフラグメントDFNKFを合成し、アミロイド線維形成によるVCD強度の増強を検出することに成功した。また、アンチポードとして全てD体のアミノ酸で合成したエナンチオマーにおいて、VCDパターンが反転した。このような結果からDFNKFの超分子キラリティーを明らかにし、アミロイド線維構造と線維多型に関連する顕著な特性を示した。
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