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2023 年度 実績報告書

酵素の構造ダイナミクスと活性制御の分子機構の理論的解明

研究課題

研究課題/領域番号 22H02035
配分区分補助金
研究機関九州大学

研究代表者

森 俊文  九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (20732043)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワード構造ダイナミクス / 自由エネルギー / 酵素反応 / 遷移状態 / 分子シミュレーション / 機械学習 / 深層学習
研究実績の概要

酵素は反応の活性化エネルギー障壁を下げることで反応を促進・制御するが、同時に酵素の構造は溶液内で大きく揺らいでいる。さらに、その揺らぎや状態遷移といった酵素の構造ダイナミクスが機能に重要であることが近年の実験から示唆されている。そのため、従来の立体構造解析や速度論的解析といった手法に加え、どのように構造揺らぎや状態遷移が起きているかを理解することが、酵素反応の分子機構の解明に不可欠である。本研究では、分子動力学シミュレーションを基盤とした理論的アプローチにより、生体分子の構造ダイナミクスを理解する理論的枠組みを構築すると同時に、酵素反応を動的側面から明らかにし、活性制御につなげることを目指している。
本年度は、基質状態や溶媒環境などといった様々な環境の変化に構造ダイナミクスがどのように影響を受けるかを調べた。中でも、近年の実験で興味が持たれている生体内環境に近い高濃度ATP溶液での挙動を調べた。まず従来の水のTIP3Pモデルではうまく記述できない高濃度ATP溶液のシミュレーションを行うために、水分子モデルの検討を行い、OPCモデルおよびTIP4P-Dモデルがより適当であることを見出した。次に、ATPが多数ある状態でのタンパク質の構造ダイナミクスを調べ、ATPが主にアデニン環を介してタンパク質と相互作用していることを見出した。
また、リン酸化反応のQM/MM計算も行い、反応過程を調べると同時に、タンパク質の構造ダイナミクスが反応の始状態に相当する構造をごく稀にしかとっていないことを明らかにした。他にも共同研究として、有機合成反応の分子機構の解明に取り組んだ。今後、これらの構造ダイナミクスと化学反応の反応経路に関する解析手法および知見が組み合わさることで、酵素の構造変化によって引き起こされる酵素反応の動的機構とその制御メカニズムが明らかになることが期待される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題で推進する酵素の構造ダイナミクスと活性制御の分子機構の解明には、平衡状態で酵素がとる多様な構造・状態の探索と、その間を行き来するダイナミクス、さらに活性部位で起こる反応イベントとの関連を統一的に解き明かすことが必要である。さらに、これらが基質の状態や溶媒環境などの影響によって変化する仕組みを理解することが、反応の制御につながる。2022年度は酵素の遅い運動を実験と結びつける解析手法と、機械学習を用いて化学反応の反応座標を決定する方法の開発を行った。本年度は、これらの方法を発展させ、生体分子の構造ダイナミクスへの外部環境の影響を解析し、また反応座標決定法の水溶液反応および酵素反応への拡張を行った。同時に、生体分子の構造励起状態から化学反応が起こる過程のQM/MM計算も進めている。このように、構造ダイナミクスと化学反応のつながりの解明に取り組んでおり、着実に研究が進んでいるため。

今後の研究の推進方策

酵素の構造ダイナミクスと活性制御の分子機構の解明に向け、2022年度および2023年度の研究により、構造ダイナミクスの解析手法や、反応イベントを記述する反応座標を機械学習にもとづき決定する方法の開発を進めてきた。また、これらの手法を用いて、プロリン異性化酵素Pin1や時計タンパク質KaiCをはじめとした複数の生体分子内でおこる化学反応の計算に取り組んで来た。今後はこれらの系に関する計算を進め、酵素の遅い構造ダイナミクスと、それに引き続いて起こる化学反応の過程を調べる。これらの性質の大きく異なる構造ダイナミクスがどのように結びつく様を明らかにすることで、酵素反応が効率よく制御されている仕組みを理解し、これを説明するための反応速度論と反応制御に向けた分子理論の開発に取り組む。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Kasestart University(タイ)

    • 国名
      タイ
    • 外国機関名
      Kasestart University
  • [雑誌論文] Conformational Dynamics in Proteins: Entangled Slow Fluctuations and Nonequilibrium Reaction Events2023

    • 著者名/発表者名
      Ono Junichi、Matsumura Yoshihiro、Mori Toshifumi、Saito Shinji
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry B

      巻: 128 ページ: 20~32

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.3c05307

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Tuning the ATP-ATP and ATP-disordered protein interactions in high ATP concentration by altering water models2023

    • 著者名/発表者名
      Mori Toshifumi、Yoshida Norio
    • 雑誌名

      The Journal of Chemical Physics

      巻: 159 ページ: 035102-1-11

    • DOI

      10.1063/5.0158046

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Structural and Dynamic Alteration of Glycated Human Serum Albumin in Schiff Base and Amadori Adducts: A Molecular Simulation Study2023

    • 著者名/発表者名
      Sittiwanichai Sirin、Japrung Deanpen、Mori Toshifumi、Pongprayoon Prapasiri
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry B

      巻: 127 ページ: 5230~5240

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.3c02048

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Bifunctional 1-Hydroxypyrene Photocatalyst for Hydrodesulfurization via Reductive C(Aryl)?S Bond Cleavage2023

    • 著者名/発表者名
      Wu Di、Shiozuka Akira、Kawashima Kyohei、Mori Toshifumi、Sekine Kohei、Kuninobu Yoichiro
    • 雑誌名

      Organic Letters

      巻: 25 ページ: 3293~3297

    • DOI

      10.1021/acs.orglett.3c01061

    • 査読あり
  • [学会発表] Theoretical study on the role of dynamics during enzyme catalysis2024

    • 著者名/発表者名
      Toshifumi Mori
    • 学会等名
      Pure and Applied Chemistry International Conference 2024
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Theoretical study on the role of protein conformational dynamics during enzyme catalysis2023

    • 著者名/発表者名
      Toshifumi Mori
    • 学会等名
      令和5年度化学系学協会東北大会および日本化学会東北支部80周年記念国際会議(物理化学コロキウム)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Bridging the gap between static and dynamic reaction mechanisms in enzyme catalysis2023

    • 著者名/発表者名
      Toshifumi Mori
    • 学会等名
      Multi-scale Molecular Dynamics Simulation and Machine Learning of Biomolecular Systems Workshop
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 高濃度ATPの自己会合とATP-タンパク質相互作用に水モデルが与える影響の理論解析2023

    • 著者名/発表者名
      森 俊文
    • 学会等名
      第17回分子科学討論会
  • [学会発表] Dissecting the heterogeneous dynamics of proteins during folding and catalysis2023

    • 著者名/発表者名
      Toshifumi Mori
    • 学会等名
      Telluride Science Research Center Protein Dynamics Workshop 2023
    • 国際学会 / 招待講演
  • [備考] 九州大学先導物質化学研究所・森研究室ホームページ

    • URL

      https://theoc.cm.kyushu-u.ac.jp

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公開日: 2024-12-25  

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