研究実績の概要 |
超原子と呼ばれる金属ナノクラスター中の価電子は,量子井戸に束縛された自由粒子と近似され,原子軌道と類似の超原子軌道(1S, 1P, 1D, …)を占有する。超原子の化学反応性や光学応答性の本質的理解へ向け,本研究では,独自に開発した超高効率光電子イメージング法(Horio et al., Rev. Sci. Instrum. 93, 083302 (2022))により,超原子軌道からの光電子放出分布を可視化し,量子化学計算を高度に融合させることで,金属骨格の形状に応じた真の軌道角運動量状態を明らかにする。以上を「超原子軌道イメージング」と題し,量子論の基礎学理構築に貢献するとともに,超原子物質科学や量子材料研究に資する学術的知見を創出することを目的とする。 研究実施計画に従い,初年度は,繰返し周波数100 kHzのYb:KGWレーザーを励起光源とする波長可変光パルスの発生に取り組んだ。おおむね順調に進展し,初年度終わりには最短波長310 nmの紫外光パルスの発生を確認した。上記と同時並行で,既存の波長404 nm (3.07 eV)のCWレーザーダイオードによる銀超原子負イオンの光電子イメージングを行った。サイズの違いにより,光電子放出角度分布が劇的に変わる様子が見出された。特に,超原子2S軌道がHOMOおよびSOMOとなるAg18-,Ag19-では,原子s軌道からの光電子放出角度分布と極めて良く似た結果が得られた。さらにAg18-と等価電子系のAg15Sc-でも同様な結果が得られた。量子化学計算による理論検証と併せて,得られた結果を論文に取り纏め2023年4月17日にアメリカ化学会のJ. Phys. Chem. Lett.に受理された。本成果は,異元素添加系で超原子軌道が形成されている確たる実験的証拠を与えたものであり,その学術的意義は極めて大きい。
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